東アジア共同体研究所

「新しい資本主義」の正体見たり枯れ尾花~経済安保だけ猪突猛進? Alternative Viewpoint 第30号

2021年10月16日

 

はじめに

一昨日(10月14日)、岸田文雄総理が衆議院を解散した。岸田内閣が発足したのはその10日前の10月4日。そして投票日10月31日だ。あれよあれよという間に選択を迫られる。岸田内閣の政策を吟味して投票先を決めることのできる人は、率直に言って少ないだろう。自民党の狙い通りなのであろうが、何か釈然としない。ささやかな抵抗として、AVP 本号では岸田内閣の看板政策であり、自民党選挙公約の柱の一つにもなっている「新しい資本主義」なるものを私なりに分析してみることにした。

最初に断っておくが、岸田内閣で実行することになる「新しい資本主義」の具体的中身を現時点で断定的に論じることはできない。何しろ、これから「新しい資本主義実現会議」を創設し、選挙後に中身を詰めると言うのだ。これでは、選挙期間中は「新しい資本主義」という看板だけを国民にチラ見せし、「とにかく自民党に投票して」と言っているのと同じ。ふざけた話である。そうはさせじ。本稿では、自民党総裁選の際の岸田による説明や総理就任後の所信表明演説等を通して、可能な限り「新しい資本主義」の輪郭に迫ろう。[i]

 

1. 新古典主義の微修正=従来政策の継続

自民党総裁選において岸田が配った経済政策の説明資料のタイトルは「新しい日本型資本主義~新自由主義からの転換」と銘打っていた。[ii]  この「転換」という2文字によって、岸田は従来の日本の経済政策(=アベノミクスの延長)を大きく変えるつもりなのだと受け止めた人もいたに違いない。かく言う私も、一瞬そう思った。ところが少し調べてみると、これには〈トリック〉があった。

確かに、岸田は小泉政権以降の新自由主義的政策が「富める者と富まざる者との深刻な分断」を生んだと批判している。だが同時に、新自由主義が日本経済の体質強化と成長をもたらした点は評価している。[iii]  岸田がたどり着いたのは「成長と分配の好循環」という言葉だ。新自由主義の利点を「成長」という言葉で、影の部分を修正する手立てを「分配」という言葉で表したわけである。そのうえで、岸田は「成長と分配の好循環」の実現こそが「新しい日本型資本主義」であると定義した。その意味では、新自由主義からの「転換」ではなく、新自由主義の「微修正」というのが正確である。

この「成長と分配の好循環」という言葉、どこかで聞いたことがあると思った人もいるだろう。その通り。この言葉は安倍内閣が2015年に「アベノミクスの第2ステージ」として「一億総活躍社会の実現」を謳った時に登場したものである。[iv]  マクロ経済政策についても、岸田は「大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略の3本柱」を堅持すると表明している。アベノミクスという言葉こそ使っていないが、中身はアベノミクスの「3本の矢」と実質的に同じだ。要するに、「新しい資本主義」は基本的に安倍内閣以降の経済政策を引き継ぐ、という宣言なのだ。なるほど、岸田は「新古典主義からの転換」を標榜してはいるが、「従来の政府の経済政策を転換する」とは一言も言っていない。

英紙ファイナンシャル・タイムズは岸田を「ミスター現状維持」と呼んだ。酷いことを言うもんだと思ったが、やっぱり当たっている。日本経済の現状が満足できるものなら、現状維持でも別に悪くはない。しかし、そうでないことは誰の目にも明らか。変えないのに変えると思わせるのは詐欺っぽい。

 

2. 分配政策=掛け声倒れ

百歩譲って、岸田が「成長と分配の好循環」を今までとは違う大胆さで進める、と言うのであれば、それはそれで評価できるかもしれない。だが、岸田はこの点でも現状維持の枠を壊せそうにない

分配政策から見てみよう。岸田が言及した分配政策の見直しの中で最も尖っているのは、総裁選で掲げた金融所得課税の見直し」である。ところが、10月8日に行った所信表明演説ではこれがすっぽり抜け落ちた10月10日のテレビ番組では岸田自身が「当面は金融所得課税に触ることは考えていない」と表明。野党から「ブレた」と追及されると、岸田は「まずは賃金を引き上げるための税制に取り組む」と述べ、順番の問題にすり替えた。だが、金融所得課税の見直しはもう死んだと思っておくべきだろう。自民党の選挙公約に「金融所得課税」という言葉は出てこない。[v] また、総裁選時の政策資料や所信表明にあった「子育て 世帯等の教育費・住居費への支援強化」自民党の選挙公約からは漏れた。自民党総裁・岸田文雄の実力はその程度のものなのだろう。

上述の賃金を引き上げるための税制と言うのは、所信表明で触れた「労働分配率向上に向けて賃上げを行う企業に対する税制支援」のことだ。その中身は、菅内閣でやった制度改正を多少拡大する程度に終わるだろう。少しばかりの税制優遇を受けるために固定費である人件費を増やす企業など、そうそう出てこない。同様の取組みを大胆に行った韓国でさえ、目に見える効果は出なかったと聞く。

太平洋の向こうでは、やはり格差是正を掲げるバイデン大統領連邦最低賃金を3割以上引き上げ、時給15ドル(約1600円)にする大統領令に署名した。また、米下院民主党は、個人所得税の最高税率引き上げ(37%→39.6%)キャピタルゲイン課税の最高税率引き上げ(20%→25%)などを提案している。[vi]  さらに、中低所得層の保育負担軽減介護など包括的な有給休暇制度の確立子育て世帯への税額控除拡充などに10年で1.8兆ドル(約200兆円)の財政出動・減税を行う方針だ。[vii]  翻って見た時、岸田の分配政策はあまりにもみみっちい

 

3. 成長政策=ホフク前進

日本経済の体質を強化し、中長期的な成長のエンジンをつくるという意味での成長政策にも目玉はない。岸田が所信表明で触れた「10兆円規模の大学ファンド」は今年1月に菅義偉総理が行った施政方針演説に入っていたものだ。デジタル、グリーン、AI、バイオなどの先端科学技術の研究開発に大胆な投資を行うと言うが、大胆と言うのはこけおどしの修飾語。実際は総花的かつ小ぶりでインパクトに乏しい。「田園都市国家構想」も悪くはないが、成長の起爆剤と言うには線が細い。

再び米国の取組みを引き合いに出す。バイデン政権は今後10年間で総額2兆ドル(220兆円)を超える公共投資を行い、交通インフラの近代化EV設備の設置水道管の更新高速インターネット網の拡充などに財政投入する方針を打ち出している。バイデンは、この大規模な公共事業が低所得・低学歴のブルーワーカーのために雇用を作り、同時に米国経済の生産性を向上させると説明する。外国人の私が聞いても、ストンと納得できるストーリーだ。悔しいが、規模と論理の両面で日本の負けを認めざるを得ない。

10月8日、岸田は数十兆円規模の経済対策を策定するよう、関係閣僚に指示した。菅が総理を続けていても、同じ指示を出していたはずだ。年末年始に向けて補正予算が組まれ、コロナ対応に関連した現金給付や各種補助金の積み増し、そして「新しい資本主義」にかこつけた各省庁の事業要望が詰め込まれることになる。結局のところ、来年前半まで日本の景気を維持するのはこの財政出動である。[viii]  この経済対策に含まれる施策の多くは、〈お金を使うだけ〉のカンフル剤だ。来年半ばくらいにそのカンフル剤の効き目が切れれば、わずかばかりの経済成長もまた鈍るそれではいかんとまた経済対策を打つ――。過去何年間同じことが繰り返されてきたことか。岸田内閣の下でも何も変わらない。

 

4. 経済安全保障~隠れた目玉?

岸田の所信表明では、経済安全保障が「新しい資本主義」を構成する成長戦略の柱の一つに位置付けられている。経済安全保障とは、国家安全保障上の観点から経済政策を展開するという考え方。わかりやすい例として、「中国企業の通信機器には〈バックドア〉が仕掛けられているから購入を禁止する」という議論を挙げておく。[ix]

経済安全保障という言葉は、菅前総理が今年1月に行った施政方針演説の中にもあるにはあった。だが、その時は重要土地利用規制法との絡みで外交安全保障政策の一環という位置づけであった。今回、経済安保が敢えて「新しい資本主義」の下に位置付けられたことは要注目だ。岸田が経済安保の例として並べたのは、〈戦略物資の確保〉、〈技術流出の防止〉、〈自律的な経済構造〉、〈強靱なサプライチェーン〉。こうした項目で他国(中国)に後れを取れば、日本経済の成長は中長期的に害される。そう考えれば、経済安保を広義の成長戦略に含めても十分に理屈は立つ。しかし、それだけではあるまい。

経済安保に関わる領域は、その旗振り役である経産省の所管分野を遥かに超える。岸田内閣で経済安保を担当する内閣府特命大臣を新設したとは言え、内閣府特命大臣は所詮軽量級の存在。いくら檄を飛ばしたところで、国土交通省、厚生労働省、総務省、財務省、文部科学省、警察といったうるさ型の大物官庁が従うとは限らない。内閣の最大の看板である「新しい資本主義」の下に組み入れた方がレバレッジは高まる。「我が国の経済安全保障を推進するための法案」も早ければ来年の通常国会に提出される。成立すれば、これも経済安保推進のために関係省庁や公明党を縛る道具立てとなるだろう。

経済安保がここまで目立つようになったのは、自民党の新幹事長となった甘利明の強いこだわりによるところが大きい。昨年6月、甘利は自民党内に「新国際秩序創造戦略本部」を立ち上げ、今年5月には経済安全保障に関する提言を取りまとめている。[x]  同本部の初代本部長となったのは、当時政調会長だった岸田である。ただし、これは「当て職」のようなものであり、同本部を仕切ったのは座長の甘利だった。岸田が表明した「国家安全保障戦略の改訂」も、経済安保を書き込む目的で甘利がねじ込んだと言われている。岸田内閣で新設された経済安全保障担当大臣に就いた小林鷹之は、甘利の下で新国際秩序創造戦略本部事務局長を務めた〈手飼い〉である。二階俊博前幹事長は対中関係を重視して何かとバランスをとろうとした。反中感情の塊のような甘利なら、容赦なく経済安保を進めようとするかもしれない。

今日、国家運営において経済安全保障から無縁でいられる政府はどこにもない。その意味では、私も経済安保への取り組みを否定するものではない。しかし、「経済安保の推進=国益」という単純な図式が成立しないのが経済安保のむずかしいところ。岸田内閣が経済安保に〈前のめり〉になれば、危うさの方が勝りかねない。私の懸念は以下の3つである。

 

(1) 経済的コスト増

物品やサービスの中国依存を脱して国産化する(または友好国からの調達に切り替える)と言えば聞こえはいい。だが、多くの場合、それは企業や消費者にとってコストアップを意味する。多くの日本企業にとって、中国は製造拠点であるのみならず、巨大な消費市場である。中国由来のサプライチェーンを安易に見直せば、中国で売れなくなる可能性も出てくる。そうなれば、経済安保が日本経済にもたらすものは、成長ではなく、停滞になる。

表立って言われることはあまりないが、経済安保の推進論者の本音は「国家安全保障上の不利益は金儲けよりも遥かに尊い」というもの。それに中国脅威論が加味されれば、「中国を相手に儲けようという発想が情けない」となる。甘利はあるインタビューに答え、「米中両国を相手に儲けたいという考えでいると、両国からデカップリング(分離)される危険性があります。両国からうまくやろうという安易な考え方でアプローチすると、(米中との取引の)両方を失う危険性もある」と警告している。[xi]  これは企業に「米国を選べ、中国は捨てろ」と迫っているに等しい。日本は人口が減り続け、潜在成長率も0.5~0.7%しかないという現実を前にした時、多くの企業経営者にとっては、米中のどちらか一方を捨てろと説く甘利の考え方の方がよほど安易というものだろう。

一方で、甘利は別のテレビ番組で「中国とのデカップリングは戦略的に考えることだ。日本の経済安全保障にとって心配がない、リスクが低い部分普通にきちんと取引をすればいい」と述べている。[xii]  前述の自民党新国際秩序創造戦略本部を参考にすれば、経済安全保障にかかわるの重要分野はエネルギー、情報通信、交通・運輸、医療、金融の5分野だ。それ以外の分野で対中貿易はこれまで通り維持されるから、日本経済に大きなマイナスは生じない、と言いたいのだろう。だが、上記5分野における対中取引の縮小が日本経済にもたらす影響は決して小さくない。しかも、日本側が上記5分野で中国に対してあからさまな経済安保措置をとった時、中国が甘利の言う「リスクの低い部分」で報復措置に出ないという保証はない。現に中国は、中豪関係の悪化を受けて豪州産の大麦、ワイン、石炭の輸入を禁止している。経済安全保障政策を立案・実行するに当たっては、そのコストが受け入れ可能な範囲にとどまるかどうかという視点が決定的に重要となる。

 

(2) 米中対立と日本の立ち位置

日本政府が経済安保に積極的になったのには、トランプ政権下にで米国政府の働きかけを受けたことが大きく影響している。例えば、トランプ政権は米政府機関やその取引企業がファーウェイやZTEの製品を購入することを禁止し、日欧や豪州、ニュージーランド等にも同様の措置をとるよう求めた。我が国も2018年後半以降、政府調達から両社を事実上排除している。トランプ路線を受け継ぎ、バイデン政権も〈民主主義国家同士で高度情報通信に関する世界標準〉をつくるべく、日欧等に働きかけている模様だ。

日本が経済安保に取り組むにあたっては、米国との絡みで注意しておくことが2点ある。

第1は、米国に要求されるままに対中経済安保措置をとり、日中対立と米中対立をますます激化させてしまう可能性があること。現時点で私が考える日本の国益は、〈米中対立を制御してできるだけ緊張緩和の方向へ持って行き、中国との軍事衝突を回避しつつ、米中双方との取引を通じて経済的利益を確保する〉ことだ。例えば、高度情報通信の世界標準作りにおいても、中国を排除するのではなく、中国にも参加を呼び掛けるよう米国に働きかけることこそ、日本の採るべき経済安全保障政策であろう。また、ドイツのように〈中国のみならず米国に対しても通信の秘密が担保できるよう監視体制を強化〉することも不可欠だ。甘利のように「中国は遮断せよ、でも米国にはノーガードでいい」というのでは甘すぎる。

第2は、米国がついてくると思って対中経済安保措置を発動したものの、頼みの米国に梯子を外されてしまうこと。米中関係の基調が対立であることは事実だ。しかし、この大国関係は一方的に対立を激化させるだけの単純なものにはならない。最近、バイデン政権は「米中間の競争の管理(manage)する」「中国指導部への関与(engage)を継続する」といった表現を多用するようになった。実際にも米中は高官レベルの接触を急増させている。[xiii]  バイデン大統領と習近平主席が年内にオンラインで公式会談することも原則合意された模様である。〈イケイケどんどん〉はくれぐれも控えた方がいい。

 

(3) 産業政策失敗の歴史

米ソ冷戦の終結後、旧西側諸国の通商政策は長らく、民間主導に道を譲った。グローバリゼーションの進展に伴い、「コストと時間の最小化」及び「利潤の最大化」という民間の論理が最優先され、国家の介入は少ない方がよいと考えられたのだ。しかし、急速に台頭した中国が「国家資本主義」と呼ばれるやり方で米国などの経済利権を侵食するようになると、トランプ政権は対外経済活動に対する政府の介入を強めることによって対抗し始めた。その結果、現代の国際社会はいつの間にか、民主主義国家でも権威主義国家でも自由貿易が〈新しい重商主義〉に道を譲りつつある。そして、民主主義国家において国家の介入を正当化するロジックとなったのが経済安全保障という概念である。

国家による経済政策への介入と言えば、かつて通商産業省が「日本株式会社」の参謀本部と言われた時代の〈産業政策の復活〉とイメージが重なる。実際、通産省の後継省庁である経済産業省は、国家安全保障局(NSS)に内閣審議官を送り込んで経済班を仕切らせるなど、経済安全保障政策の旗振り役となっている。私の印象では、経産省には、弁が立つうえに行動力があり、政治家にも物怖じせずに意見する役人が比較的多い。しかし、経産省(通産省)の産業政策を採点してみると、結果は無惨としか言えない。
経産省が関わった半導体関連の国策プロジェクトはほとんどすべて頓挫している。1999年に日立製作所とNECのDRAM部門が合併してできたエルピーダメモリも2012年に倒産した。徴用工問題で文在寅政権に激怒した安倍に知恵をつけ、韓国向け半導体材料の輸出規制等を行わせたのも経産省だった。その結果は、徴用工問題で韓国側から妥協を一切引き出せないまま、韓国における日本企業のシェアを米欧企業に奪われただけだった。
ごく最近も、半導体受託製造で世界最大手のTSMC(台湾積体電路製造)が熊本県に新工場を建設するというニュースが伝わってきた。世界的な半導体不足が言われる今、経産省はこれを経済安保の成功例として宣伝するに違いない。しかし、TSMCが熊本工場で生産する半導体の回路線幅は22-28ナノメートル(nmと言われており、同社が米アリゾナ工場で生産する2-5nmのような最先端の半導体ではない最大8千億円と言われる建設費の半額を日本政府が補助するような話なのか、疑問を呈する声が既に上がっている。

米国政府との間で一義的な窓口になることの多い外務省にも、米国の御用聞きが一種の〈習い性〉になっているという問題がある。日本政府内で経済安全保障政策を推進する経済産業省と外務省が張り切れば張り切るほど、私は不安になる。

 

経済安全保障は、有力政治家と有力省庁を擁し、なおかつ米国からの外圧も加わるため、「新しい資本主義」の中で最も推進される分野となる可能性を秘めている。一方で、選挙の結果次第で甘利幹事長が力を失えば、経済安保は一気に推進力を失う可能性を孕む。いずれにせよ、経済安保の手綱の取り方を間違えたら、日本経済はもちろん、日本の安全保障にも取り返しのつかないダメージを与えてしまう。「新しい資本主義」の下に経済安全保障という〈鎧と剣〉の政策が入っていることを我々は肝に銘じ、今後の展開を注意深く見守ることが必要だ。

 

おわりに

衆議院が解散され、選挙戦が事実上始まっている。「新しい民主主義」は今回の選挙戦でどんな意味を持つのだろうか。

まず、有権者に対して。「新しい資本主義」の耳当たりは悪くない。わかったような、わからないような言葉ではあるが、選挙ではそれがプラスに働くこともある。漠然としているからこそ、格差に苦しむ人は岸田が格差是正に力を入れるつもりだと勘違いする。でも、実際には骨太な格差是正策が用意されているわけではない。だから、経済的強者あるいは勝ち組の人たちも安心していられる。中国脅威論の高まりを受け、「経済安全保障」という言葉が頼もしく聞こえる国民も少なくないだろう。「新しい資本主義」という言葉は、インパクトは今一つながら、〈守りの選挙〉にはうってつけのキャッチフレーズと言えよう。

野党にとってはどうか。「新しい資本主義」を掲げる岸田は「成長も分配も」追求するスタンスだ。短期の選挙戦で野党が岸田のこの八方美人的な主張を効果的に攻めるのは骨が折れそう。野党は「分配重視」を唱えているが、成長は否定できない。「新しい資本主義」に具体性がないことも〈痛し痒し〉である。本稿で述べたように、「アベノミクスの継続にすぎない」「中途半端」と批判することはできても、それだけで決定打とはなるまい。「新しい資本主義」を打ち出してから間もないため、〈実績評価〉を問うわけにもいかない。さらに、経済安全保障を批判すれば、批判した側が親中派のレッテルを貼られないとも限らない。

有権者は経済政策だけを見て投票先を決めるわけではない。そのことを断ったうえで言えば、「新しい資本主義」は選挙のための姑息な戦術としては相当によくできている。だが、本当に大事なことは、選挙が終わった後、「新しい資本主義」によって日本経済が浮上するか否かだ。その答がノーであることは火を見るよりも明らか。「新しい資本主義」を主張する岸田に閣内や自民党を掌握する力がないことも徐々に国民の知るところとなっていこう。「新しい資本主義」と岸田新総理が馬脚を現すのが先か投票日の10月31日が来るのが先か。それが勝負の分かれ目となりそうだ。

 

 

[i] 令和3年10月8日 第二百五回国会における岸田内閣総理大臣所信表明演説 | 令和3年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース | 首相官邸ホームページ (kantei.go.jp)

[ii] 20210908-02.pdf (kishida.gr.jp) 20210908-01.pdf (kishida.gr.jp)

[iii] 小泉政権以降の日本の経済政策を新自由主義的と見ることに対しては異論もある。だが本稿では、岸田の唱える「新しい資本主義」を理解するため、その議論には立ち入らないでおく。

[iv] 一億総活躍社会の実現 | 首相官邸ホームページ (kantei.go.jp)

[v] 令和3年政策パンフレット (nifcloud.com)

[vi] 米下院民主党、3兆5,000億ドル投資財源として増税案発表、法人税率26.5%に(米国) | ビジネス短信 – ジェトロ (jetro.go.jp)

[vii] ただし、連邦最低賃金の引き上げを除けば、ここで紹介した格差是正政策を実現するためには議会対策という高いハードルを越える必要がある。

[viii] 経済対策の財源の大半は赤字国債になるだろう。しかし、野党の主張する消費税減税等も財源の手当てがあるわけではないため、国会や選挙で大きな争点にはならない。なお、財務省の矢野康治事務次官が与野党のバラマキ合戦を批判して話題になっているが、国債金利が本格的に上昇しない限り、彼の議論が政府の経済財政政策に大きな影響を与えることはないだろう。矢野の議論の最大の弱点は、「バラマキ」の対案が「野垂れ死に」でしかないことである。

[ix] ただし、いわゆる「セキュリティ・バックドア」の存在は少なくとも公には証明されていない。また、米国政府も必要に応じて同様のことを行っていると考えられる。

[x] 新国際秩序創造戦略本部 中間とりまとめ ~「経済財政運営と改革の基本方針2021」に向けた提言~ (nifcloud.com)

[xi] 甘利明・自民党税制調査会長「経営者は『経済安全保障』を意識しないと、突然危機を迎える場面もでてきます」 | 財界オンライン (zaikai.jp)

[xii] 自民・甘利氏「経済安保相は『NSS含め、全省庁に指示可能にする必要がある』」 (fnn.jp)

[xiii] 参考までに、最近の米中間の高官接触の動きを以下に示しておく。

8月31日~9月2日、ジョン・ケリー気候変動担当大統領特使は中国を訪問し、中国側カウンターパートのほか、韓正副首相、楊潔篪政治局委員、王毅外相とも会談した。
9月9日、バイデン大統領は習近平主席と電話会談を行った。バイデンは習との間で「台湾合意を遵守することに合意した」ことを認めた。ここで言う台湾合意とは「一つの中国」原則と台湾関係法のセットを指すと見られる。
9月21日、バイデンは国連総会で演説し、「我々は新しい冷戦や硬直したブロックに分割された世界を求めていない」と述べた。
9月24日、米司法省から詐欺罪で起訴され、カナダで拘束されていた孟晩舟ファーウェイ副会長の帰国が許可された。
10月6日、ジェイク・サリバン安全保障担当大統領補佐官と楊潔篪政治局委員がスイス・チューリヒで6時間にわたって会談した。
10月8日、キャサリン・タイ通商代表と劉鶴副首相が初の閣僚級貿易協議(電話)を行った。

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