東アジア共同体研究所

Alternative Viewpoint

「中国たたき」のメニュー:米中対立はいかに激化するか?

Alternative Viewpoint 第4号

「中国たたき」のメニュー:米中対立はいかに激化するか?

2020年5月30日


前号(AV第3号)では、今日の米中対立の実相について、その背景、特徴、米国内の政治力学等の観点から点検、整理してみた。残念ながら今後、米中対立の激化は避けられそうもない。我々にはそれを止める術もない。だが、事前に想定を立てて対策を練っておくことはできる。本稿では、今後いかなる分野で米中対立が激化しそうなのか、5つの分野で米国の持つ「中国たたき」のオプションを検討してみた。加えて最後に、米国の「中国たたき」に見られるスタイル面での変化の兆しについても触れておく。


メニュー その1. ファーウェイ潰し

 今後も米国は中国の技術力を削ぐため、ファーウェイ(華為技術)に対する制裁措置をなりふり構わずに繰り出してくる。ファーウェイが先端技術と競争力を有している限り、米国によるファーウェイ潰しの動きは終わらない。

≪ファーウェイの脅威≫
ピーター・ナヴァロ米大統領補佐官は、前号でも触れた『米中もし戦わば』(原題の直訳は『伏した虎』)の中で「アメリカがこれほどの超大国になったのは、我が国の技術力と技術革新と兵器システムが世界中のどの国よりも遥かに優れているおかげなのだ」という見解を引用している。軍事や経済を究極的に左右する根本は、技術力である。

ファーウェイの製品に「バックドア」があって中国政府に情報が筒抜けになる、という米国政府の主張がどの程度正しいのか、実ははっきりしないところもある。しかし、ファーウェイが昨年出した特許出願件数は4,411件、3年連続して世界一だった。[i] ナヴァロのような考え方に基づけば、同社は米国にとって間違いなく安全保障上の脅威である。

米国政府は昨年5月以来、ファーウェイが米国企業の技術を利用した製品やソフトウェアを直接または間接的に使用することを禁じたり、ファーウェイ製品を政府調達から締め出したりしてきた。そして今月15日、米国商務省はファーウェイ及び子会社のハイシリコンへの制裁を強化し、両社の仕様に基づいて米国外の企業が米国の技術やソフトウェアを使った受託生産を行うことを事実上禁止した。1年前に導入された規制の「抜け穴」封じを狙ったものだ。[ii]

≪米国以外の動向≫
米国政府は、自国市場だけでなく、同盟国やパートナー国の市場からもファーウェイを締め出そうと躍起になっている。米国からファーウェイ排除を求められた国の対応は分かれる。日本やオーストラリアなどは米国に同調する傾向が強い一方で、英仏独などはファーウェイ採用の余地を残してきた。

日本は2018年末、政府調達から中国製品を排除する方針を政府内で申し合わせた。いよいよ運用が始まった5Gのインフラ整備についても、日本政府の方針を受けて大手キャリアはファーウェイを採用しない方向だ。今国会では「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律案」が成立し、5G設備の導入などで国産を優遇するとともに事実上中国製品を排除する仕組みができる。[iii]

欧州、東南アジア、中東などでは、5Gの通信設備にファーウェイ製を採用した国もあれば、ファーウェイを排除しないと表明した国もある。何せ、ファーウェイには「価格が安くて性能が高い」という強みがある。

今年2月、フランス政府は同国の5Gネットワークからファーウェイ製品を排除しないことを明らかにした。[iv] 2週間後、ファーウェイはフランスに欧州市場向け5G製品の工場を建設し、約500人を雇用すると発表した。[v] 二つの決定に関連があることは誰の目にも明らかであろう。

少し複雑なのが英国だ。今年1月末、米国政府から「狂気の沙汰」と警告されながらも、英国政府は5G通信網へのファーウェイ製品の一部使用を認めると決めた。しかし、最近になってボリス・ジョンソン首相はその方針を変更してファーウェイ排除を検討していると伝えられた。米国の圧力が続いているだけでなく、中国の「戦狼外交」に対する反発などが作用しているようだ。

≪抗争の行方≫
米国政府がファーウェイに仕掛ける「戦争」の行方はどうなるのか? 米国が一方的に攻めているように見えるが、ファーウェイは簡単にギブアップしない。中国政府もファーウェイを徹底的に支援するだろう。中国には14億人の巨大な国内市場がある。そこで何とか耐え忍んで時間を稼ぎ、米国企業に頼らない自前調達ネットワークを確立したり、OSを含めた独自のソフトウェア技術を獲得したりすることができれば、追い込まれるのは逆に米国の方だ。米国の最大の弱みは、自国にファーウェイに対抗できる同業他社がないことである。

米国の戦略に乗ってしまった日本にとって、米国政府とファーウェイの「仁義なき戦い」の行方は他人事ではない。ファーウェイを潰すか日米欧の企業がファーウェイに追いつくかしなければ、日本も米国と一緒に5Gの普及で後れをとり、軍事・経済面でも大きな不利をこうむることになりかねない。


メニュー その2. サプライチェーンの見直し

 トランプ政権はこれまでも、中国に依存したサプライチェーンから米国企業を脱却させ、米本土へ回帰(リショアリング)させようと努めてきた。米政府や議会の対中強硬論者たちは、コロナ危機を口実にしてリショアリングを一層大胆に進めようと意気込んでいる。

≪バイ・アメリカンとリショアリング≫
3月中旬、ナヴァロ米大統領補佐官は、医薬及び医療機器の購入について連邦政府機関に「バイ・アメリカン」を義務付ける大統領令を準備していると述べた。[vi] 米国内で製造された医薬及び医療機器に対する需要を強めることにより、海外(特に中国)に進出した米医薬品メーカー等を米国に戻す、というロジックである。中国から米国へ生産拠点を戻すことによって国内の雇用を増やす、と大統領選でアピールしたいという思惑も覗く。議会でも同様の目的を持った法案が提出された。[vii]

リショアリングの手法としては、このほかにも税制優遇や補助金を使うことも検討されている模様だ。[viii] 5月26日、ラリー・クドロー国家経済会議(NEC)委員長は、香港国家安全法の動きを念頭に置いて「香港や中国本土からサプライチェーンと生産拠点を米国に戻そうとする米国企業があれば大歓迎だ。米国政府は移転費用を支払ってもよいし、いかなることでもやる」と述べた。[ix]

≪サプライチェーン見直しをめぐる駆け引き≫
コロナ危機を受け、サプライチェーンで中国にあまりに依存しすぎていることが経済政策上も企業経営上も深刻なリスク要因であるという認識は日本政府内でも広がっている。3月5日に開かれた『未来投資会議』で安倍総理は次のように述べた。

中国などから日本への製品供給の減少による我が国サプライチェーンへの影響が懸念される中で、一国への依存度が高い製品で付加価値が高いものについては、我が国への生産拠点の回帰を図り、そうでないものについても、一国に依存せず、ASEAN諸国などへの生産拠点の多元化を図ります。
 
 この発言を受けて補正予算には、移転費用の2分の1から3分の2を補助(上限150億円)するため、「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」として2,200億円が計上された。[x]
中国における人件費高騰、知的所有権の侵害、共産党による介入等の問題がある以上、SCの対中過剰依存を是正する動きが今後出てくることは、避けられない。しかし、中国から民族大移動よろしく脱出することが正解なのかと言うと、そんな単純な話ではない。米国では「リショアリングよりもリダンダンシー(重複)」という議論も出てきている。[xi] マスク、人工呼吸器、防護服などについても、「中国で作って平時に備蓄しておけばよい」という意見が根強くある。

そもそも、次のパンデミックが中国で発生すると決まっているわけではない。しかも、今回のコロナ危機のように感染が全世界に広がれば、生産拠点をどこへ置いても生産活動は停止せざるを得ない。今、中国からの移転候補地として有望とされるベトナムでは、中国で工場の操業が再開された3月末頃から操業停止状態となった。中国へ進出する日系企業の場合、「大部分が中国市場で生産・販売する『地産地消』型」だという事情もある。[xii] 今や、中国は「世界の工場」であるのみならず、「世界の市場」だ。上述の補助金もどれだけ使われることになるか、わかったものではない。

≪中国が怖れるべきは自分自身か?≫
米国政府や日本政府が推し進めようとするサプライチェーン見直しの動きに対し、中国側は相当神経質になっている。しかし、中国由来のサプライチェーンを見直す動きが本格化するとすれば、企業が中国のカントリー・リスクを肌で感じるようになった時ではないか。例えば、香港情勢による混乱が全土に波及したり、米中対立の煽りで中国政府が進出企業に矛先を向けたりすれば、自国政府に言われようが言われまいが、企業は中国からの脱出を企てるであろう。中国でサプライチェーンが崩れるか否かの鍵を握るのは、米国を含めた外国政府ではなく、中国政府自身である。


メニュー その3. 関税引き上げの再開
 新型コロナ危機の拡大を受け、「中国が初期対応を誤ったためにウイルスを世界に拡散させた」として中国に怨嗟の声をあげる動きがある。

≪対中損害賠償請求≫
米ミズーリ州をはじめ、英、伊、独、印、豪などの団体は中国政府に賠償を求める訴訟を起こした。パンデミックの初期対応がまずかった国に損害賠償を求める、という話は聞いたことがない。第一次世界大戦に負け、講和条約で巨額の賠償金を課せられたドイツではない。中国から「賠償金」を取ることは不可能だ。
一方、マーシャ・ブラックバーン上院議員(テネシー州、共和党)などは賠償金の代わりに中国が保有する1兆ドルの米国債を放棄させるべきだと主張している。[xiii] こちらも実現可能性はゼロに等しい。

≪関税引き上げ、再び≫
トランプは表向き、損害賠償請求の話に乗る素振りを見せてない。ただし、4月30日にトランプは「関税なら簡単にマネーを得られる」と述べ、賠償金の代わりに追加関税の形で中国に償わせることを匂わせた。[xiv]

今年1月15日、訪米した劉鶴副首相とトランプ大統領は「中国が米国からの農産物輸入を拡大するかわりに米国は昨年9月に発動した追加関税の半分を引き下げる」という合意に署名した。2月には米中が関税引き下げを実行し、2018年以来続いている関税引き上げ合戦は事実上の休戦に入った。

1月の合意を受け、米国政府も軽々しく関税引き上げに触れることはできないはずだが、トランプは「中国発の新型コロナで気が変わった」と述べて悪びれる様子もない。前号で見たとおり、米国の世論は反中に大きく傾いている。一方で、コロナ恐慌の中、対中追加関税の負担にあえぐ米企業も少なくない。トランプは大統領再選のために何が有利かを考えながら、中国を標的にした関税引き上げカードを切るか否かを決めるだろう。


メニュー その4 金融制裁~上場規制からドル決済停止まで
 
 米国が手にする経済的な制裁手段のうち、中国が密かに最も恐れているのは金融、なかでもドル決済に関わるものであろう。

≪上場規制の強化≫
最近、中国企業が米国の株式市場で資金調達することを妨害する動きが具体化しつつある。5月20日、米上院は米国の証券取引所に上場している外国企業に対し、自社が外国政府の管理下にないことを証明するよう義務付け、3年連続で証明できなければ上場廃止に処するという法案を全会一致で可決した。[xv] 下院ではこれから審議に入る見込みだ。主たる標的が中国企業であることは言うまでもない。

NASDAQやNYSE等には、アリババ集団、バイドゥ、ペトロチャイナなど150社以上の中国企業が上場している。その時価総額の合計は5,000億ドル(50兆円強)超。仮に法案が成立すれば、条件をクリアできない中国企業は大打撃を被るし、クリアできる企業もリスクを嫌って自ら上場を廃止する可能性が出てくる。

上場廃止となった中国企業は他国の証券取引所で上場を企てるだろう。[xvi] その場合、米国は後述するEPNのような仕組みを通じて、他国の株式市場でも米国と同様の規制を導入するよう働きかけると予想する。

≪ドル決済からの排除≫
 一番きついのは、制裁相手国の銀行をドル決済から排除するという、米国以外の国にはできないオプションだ。今日、世界の基軸通貨は米ドルである。仮定の話だが、米国政府がニューヨーク連邦銀行を含めた米国の金融機関に中国の銀行との取引を禁止すれば、当該銀行はドル決済システムから排除され、貿易業務ができなくなる。2005年9月には北朝鮮の資金洗浄に関わった在マカオのバンコ・デルタ・アジアが米金融機関との取引を停止され、取り付け騒ぎまで起きた。当該銀行の規模が大きければ、中国国内で深刻な信用不安を招きかねない。

2017年11月、中国遼寧省に本店のある丹東銀行が北朝鮮の資金洗浄に協力していたとして、米財務省は米国の金融機関に丹東銀行と取引することを禁止し、そのうえで中国政府に対し、大手行を含む他の銀行へも制裁を追加すると圧力をかけた。[xvii] ほどなく、中国政府は北朝鮮への送金を停止するなど、対北朝鮮制裁に重い腰をあげた。「ドル決済からの排除」というカードの威力を物語るエピソードだ。

 米国が経済戦争の一環として中国に対してドル決済カードを切る可能性は果たしてあるのか? 米国が様々な理由をこしらえて――例えば、ファーウェイの制裁逃れを助けていると難癖をつけて――中国の銀行をドル決済から排除することは、トランプ政権や今の米議会なら決してできない相談ではない。

中国の大手行をドル決済から排除すれば、中国のみならず世界の金融システムが動揺しかねない。中国が事実上の宣戦布告と受け取る可能性すらある。相手が中国という大国である以上、米国政府も「ドル決済からの排除」というカードを切ることには慎重なはずだ。仮に切るとしても丹東銀行のような小規模銀行にとどめると考えるのが常識であろう。ただし、「従来思考の延長線上で物事を考えない」トランプ政権にそんな常識が通じるのか? 判断は読者に委ねる。


メニュー その5. 台湾/香港問題への介入
 
 私は、トランプ政権が中国のレジーム・チェンジ(=共産党政権の転覆)を狙っているとは思わない。しかし、中国の総合国力を削ぐためにあらゆることをする、という観点からトランプ政権が台湾や香港、あるいはウイグルの問題に介入する可能性は十分にある。
台湾や香港の民主派を支援することによって、中国の外交的影響力を低下させることのほか、共産党指導部のエネルギーを分散させ、中国国内に混乱を生む等の効果が期待できる。もう一つ、反中国に傾く米国内世論を考慮したとき、台湾や香港の支援は大統領選対策にも有利に働く、という算盤算用もはじける。

≪台湾≫
中台の軍事衝突を招くような事態は、とりもなおさず、米中軍事衝突の可能性が高まる事態である。そんなことはトランプ政権もまったく望んでいない。米国側はそこに至らない範囲で台湾を支援するつもりであろう。台湾側が独立を声高に叫び始めたために米国が台湾への肩入れを弱めたことは過去にもあった。ただし、台湾問題は共産党支配の正当性の根幹を揺るがす一大事だ。共産党指導部が米国の想定を超えた反応をみせる可能性があることには十分注意が必要である。

3月27日、トランプ大統領は「台湾同盟国際保護強化イニシアチブ法」に署名した。台湾が国際社会に参加できるよう米国が後押しするための法律である。[xviii] トランプは「WHO(世界保健機関)は非常に中国寄りだ」と批判する一方で、米国政府もWHO年次総会(5月18~19日)へ台湾がオブザーバー参加することを求めた。日・英・仏・独・豪などの政府も米国に同調した。5月13日には米議会上院が台湾のWHO年次総会への参加に向けた戦略の策定を国務長官に求める法案を可決した。コロナ危機を経て米国では台湾にスポットライトが当たり始めた観がある。

中国側は台湾が「一つの中国」を認めることをWHOオブザーバー参加の条件としたため、結果的に台湾の参加は叶わなかった。中国の姿勢は国際的な反感を買った。こうなることは米国をはじめ、各国とも想定の範囲内だったと思う。

5月20日、総統就任演説を行った蔡英文は「米・日・欧との貿易や投資保護の協定締結に向けてこれからも努力」すると表明した。[xix] 米国や日本などがこれに応じれば、対中関係の悪化に拍車がかかりそうだ。蔡の2期目が始まったのと同じ日、米国防総省は総額1億8千万ドル規模の誘導魚雷とその関連機器を台湾へ輸出することを承認した。

≪香港≫
ここへ来て香港問題が深刻化し、米中対立の新たな焦点となりそうな雲行きだ。5月28日、中国の全国人民代表大会(全人代)は「香港国家安全法」の制定方針を採択した。同法は9月までには成立する見通しであり、今後香港で大反発が起きることは必定である。

150年にわたって英国に統治されていた香港は、歴史や経済面だけでなく、自由と民主主義という観点からも国際社会にとって特別の存在だ。各国政府は早くも中国批判のトーンを強めている。香港をめぐる緊張を受け、トランプ大統領は29日にも新たな対中政策を発表する構えだと言う。

元来、香港問題は米中対立の本筋に位置する問題ではなかった。しかし、香港に対して認められてきた貿易・投資上の優遇措置が撤廃されたりすれば、香港(すなわち中国)は経済や金融の面で新たな大打撃を受け、香港問題は一気に米中対立の最前線へ躍り出る。対立の焦点が二国間の貿易赤字ではなく、民主主義や人権といった普遍的なテーマになるため、中国に対してG7を含む国際社会が一致した圧力をかける動きも強まろう。これまでの米中貿易戦争と比べ、日本も傍観者の立場はとりにくい。

香港問題は台湾問題と同じく、中国共産党による中国統治の正当性に直結している。中国の指導部に妥協の余地はほとんどない。米中対立が想定以上のスピードで激化する可能性も出てきた。


中国たたきのスタイル ~対中多国間包囲網の兆し

 「アメリカ・ファースト」のトランプは、二国間でのディールを好む。米中間ではこの間、米国政府が中国からの輸入に対する関税引き上げを実施し、中国政府が報復として同様の措置をとる、ということが繰り返されてきた。

≪バイからマルチへ≫
鉄鋼・アルミでは日本からの輸出にも〈とばっちり〉で追加関税がかかったが、米中対立は基本的には「トランプ政権が〈勝手に〉やっていること」と言うことができた。日本政府が中国からの輸入に対して関税を引き上げることはなかった。中国が日本に対して報復関税をかけることも、当然なかった。

実際には、政府調達からファーウェイ製品を排除するなど、日本が米国に歩調を合わせた部分がなかったわけではない。しかし、米国の要請は非公式に行われたため、少なくとも表向きは、日本が独自に決めたことになっている。敢えて戦線を拡大したくなかった中国も「見て見ぬ振り」をすることができた。

これからは様相が変わるかもしれない。米国が日本を含めた同盟国などに声をかけ、あからさまに多国間で対中国経済包囲網をつくろうとする動きが垣間見えてきたのだ。

4月29日、ポンペイオ米国務長官は「今回の(コロナ危機のような)ことが二度と起きないようにするため、いかにサプライチェーンを再構築するか」について日本、インド、韓国、オーストラリアなどと協議を始めていると明らかにした。キース・クラック国務次官(経済成長・エネルギー・環境担当)によれば、米国政府が戦略的に重要と考える分野を選び、サプライチェーンの見直しに多国間で取り組みたい意向のようだ。[xx]

≪経済的繁栄ネットワーク(EPN)≫
ここで注目されるのが、経済版の有志連合を指すとみられる「経済的繁栄ネットワーク(EPN, Economic Prosperity Network)」構想である。

EPNとは何か? クラックが説明しているのを聞いてみたが、具体的な制度設計がまだ詰まっていないのか、正直言ってよくわからなかった。[xxi] 民主的な価値観を持つパートナーの国々(企業、市民も含む)によって運営されると強調しているので、中国排除の意図は明確である。対象分野は、デジタル経済、エネルギー、インフラ、資金の流れ、教育、リサーチ、ロジスティクス、サプライチェーンなど多岐にわたると言う。

多くの国がEPNに共感を示している、とクラックは自信を示す。だが実際には、日本や韓国をはじめ、中国と表立った形で対立することを望まない国がほとんどすべてだろう。EPNの枠組みで米国と一緒になって対中制裁を実施すれば、中国の報復は米国以外の参加国にも必ず向けられる。みんなで渡っても、損は損、痛みは痛みだ。米国と声を掛けられた国々の間でこれから綱引きが行われるのであろう。

≪バイデン政権なら多国間アプローチが強まる≫
EPNという名称が使われるかどうかを別にすれば、「中国に対する経済的な圧力は米国が主導してマルチでかけた方が効果的である」という考え方は民主党政権下でこそ、より鮮明になりそうである。外交専門誌『Foreign Affairs』2020年3月/4月号に寄稿したジョー・バイデン(オバマ政権の副大統領にして事実上の民主党大統領候補)は「経済安全保障は国家安全保障である」と宣言したうえで、「(米国企業から技術や知的所有権を奪い、国家の補助金によって将来の技術を独占するといった中国の挑戦に)最も効果的に対処する方法は、中国が行う悪行や人権侵害と対決するため、米国の同盟国・パートナー国と共に統一戦線を構築することだ」と述べている。

 前号で述べた通り、仮にバイデン大統領が誕生しても対中追加関税がトランプ以前に戻る可能性は低い。それで対中統一戦線と言われたら、同盟国も米国のマルチ回帰を喜んでばかりはいられまい。


結語
 本稿で示したメニューがすべて実行されるわけではないだろうし、これ以外の形で米中対立が顕在化することも当然あるだろう。だがいずれにせよ、米中対立が今後一段と激しさを増すことは避けられそうもない。日本も否応なしに米中対立に巻き込まれるようになる。

米国が日本に対し、対中関税戦争やサプライチェーンの見直しで足並みを揃えるよう求めてきたらどうすべきか? 日本がそれに応じれば、中国は日本へ制裁を科すだろう。断れば、日米関係は悪化することが避けられない。

 日本としては、米国と中国のどちらかを選ぶことなどできはしない。だが、米中対立が今以上に高じてくれば、米中ともそんな言い訳を許さないだろう。そこでひるむことなく、我が道を行く気概があるやなしや? 

米ソ冷戦期の「日米同盟一択」のような〈きれいな答〉が米中対立の時代にあるわけがない。それについてはまた別の機会に論じてみたい。



[i] https://www.wipo.int/pressroom/en/articles/2020/article_0005.html

[ii] https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59183930V10C20A5MM8000/

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59195670V10C20A5EA5000/?n_cid=SPTMG002

[iii] https://mainichi.jp/articles/20200121/ddm/008/020/104000c 

[iv] https://www.afpbb.com/articles/-/3268180?cx_part=related_yahoo

[v] https://www.afpbb.com/articles/-/3270741?cx_part=related_yahoo

[vi] https://www.cbsnews.com/news/peter-navarro-pitches-executive-action-to-reduce-dependence-on-medicine-made-abroad/

[vii] https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58594630Y0A420C2FF8000/

[viii] https://www.reuters.com/article/us-health-coronavirus-usa-china/trump-administration-pushing-to-rip-global-supply-chains-from-china-officials-idUSKBN22G0BZ

[ix] https://www.foxbusiness.com/markets/us-pay-bring-china-supply-chains-home-kudlow 

[x] https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01268/00004/ 

[xi] https://www.foreignaffairs.com/articles/2020-04-01/how-pandemic-proof-globalization

[xii] https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2019/1201/b6c38efe930b4580.html

[xiii] https://dailycaller.com/2020/04/13/marsha-blackburn-china-cancel-us-debt-pay-coronavirus-covid-19/

[xiv] https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58693650R00C20A5EA3000/

[xv] https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-05-21/QAP81IDWRGGI01

[xvi] https://www.motleyfool.co.jp/archives/9444 

[xvii] https://www.scmp.com/news/china/diplomacy-defence/article/2118225/chinese-bank-banned-operating-us-over-north-korea-ties 

[xviii] https://jp.reuters.com/article/taiwan-usa-idJPKBN21E0F5 

[xix] https://www.roc-taiwan.org/jp_ja/post/31943.html 

[xx] https://www.reuters.com/article/us-health-coronavirus-usa-china/trump-administration-pushing-to-rip-global-supply-chains-from-china-officials-idUSKBN22G0BZ

[xxi] https://www.youtube.com/watch?v=upV9gh8yMSY



【著者プロフィール】
須川清司(すがわ きよし)
1983年、早稲田大学政治経済学部を卒業し、住友銀行(現在の三井住友銀行)勤務。資金為替部、シカゴ支店、シンガポール支店等を経て1995年に同行退職。1996年、シカゴ大学大学院国際関係学科修士課程を修了後、民主党勤務。政策調査会及び役員室部長代理。2009年10月から2012年12月まで内閣官房専門調査員を兼務。2013年以降は民主党政策調査会部長。2020年3月、国民民主党を退職し、同年4月より現職。著書に『米朝開戦』(2007年、講談社)『外交力を鍛える』(2008年、講談社)。

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