東アジア共同体研究所

Alternative Viewpoint

米中対立時代の安全保障論議~その4. ミサイルが変える日米同盟

米中対立時代の安全保障論議~その4. ミサイルが変える日米同盟



Alternative Viewpoint 第10号

2020年9月4日



はじめに

 8月22日付AVP 8号で米軍の新しい対中戦略を概観し、8月29日付AVP 9号でそれが日本の防衛戦略に与えるであろう影響について検討した。本号では、米軍の対中新戦略が日米同盟の性格や日米の力関係にもたらすはずの変化について考察する。



ミサイルが日米同盟に〈双務性〉を付与する

日米安保条約は片務的である――。長年、こう言われてきた。しかし、中国が米国にとって安全保障上の脅威の筆頭となり、米中間で日本列島を含む第一列島線でミサイルの応酬が想定されるようになった今日、日米同盟は事実上の双務性を獲得しつつある。



≪日米安保の片務性≫

知っている人は見飽きていると思うが、日米安保条約第5条(の前半)は次のような条文となっている。


各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。


主語は日米両国(各締約国)だが、共同防衛の対象には「日本国の姿勢の下にある領域」内での武力攻撃という限定が挿入されている。そのため、米国は日本が攻撃されたときに日本防衛の義務を負う一方、米本土が攻撃されても日本に米国を防衛する義務はない。これを以って「日米安保は片務的」と言われてきた。(日米安保条約第5条については、「自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動する」ことが軍事的な防衛義務を必ずしも意味しない、という別の重要な議論もある。だが、本稿でその論点に立ち入ることはしない。)合わせて下記に第6条も見ておこう。


日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。
 前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、千九百五十二年二月二十八日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定(改正を含む。)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。


第6条では、前段で「米国が日本の領域内に米軍――駐留目的は日本防衛に限らない――及び米軍基地を置くことができる」と認め、後段で「在日米軍の権利義務関係は別途、地位協定等を結んで定める」と書いてある。「1952年2月28日云々~」は旧安保条約に付属した行政協定のこと。現行地位協定の前身と思えばよい。

日本政府は、第5条で日本の米国防衛義務が定められていなくても、第6条で米軍の日本駐留を認めているため、トータルで見れば「日米安保条約は片務的なものではない」と説明してきた。加えて、日本政府は駐留米軍の経費についても地位協定で決めた以上の負担を続けている。日本側の負担額たるや、防衛省の試算では2015年度で米軍駐留経費の86%に及んだ。

しかしながら、米兵の生命が懸かる〈防衛義務〉と〈米軍駐留の許可 + 米軍駐留経費負担〉との間で「バランスがとれている」と言っても、直感的な訴求力は今一つだ。大多数のアメリカ人や少なからぬ日本人はこれまで「日米安保は片務的だ」と思ってきた。

ところが21世紀に入り、状況は一変しつつある。もちろん、日米が安保条約を改訂したわけではない。「米中が戦う時に日本が中国から攻撃されない」というシナリオが今日、ほぼ消滅してしまったのだ。



≪米中がミサイルで戦えば、日本は参戦せざるを得ない≫

米軍が長距離ミサイルを第一列島線に配備しようとする最大の目的は、米国の西太平洋――最近は「インド太平洋」と呼ばれることが多い――における影響力、ひいてはグローバルな米国の権益を守るため、中国軍を第一列島線の内側に封じ込めることにある。試金石は、中国が台湾を武力統一するのを阻止できるか否か。できなければ、米国が世界中で持つ同盟ネットワークは中国(やロシア)に対して「張り子の虎」とみなされ、米国自身も西太平洋地域で〈航行の自由〉を失うことになる。

 台湾有事をめぐって米中が軍事衝突する確率は決して高くはない。米中の指導者もそんなことは全く望んでいない。それでも最近、米中両国の外交は虚栄と国内要因に縛られて相互敵視のスパイラルに陥り、西太平洋における米中の軍事力も接近している。また、中国共産党指導部はコストを度外視しても絶対に台湾独立を容認しない。米中の軍事衝突がまったくあり得ない、と片付けることはできない。

では、米中が台湾有事絡みで――南シナ海有事でも基本的には同じことだが――戦うことになれば、事態はどのように進むのであろうか? 表に出ない部分では、宇宙空間やサイバー空間を含め、米中は相手の戦域制御ネットワークや指揮・統制・通信・コンピュータ・情報・監視・偵察(C4ISR)を麻痺させるため、凌ぎを削る。この部分が戦いの帰趨に与える影響は極めて大きい。だが、本稿では目に見える部分の米中の攻防と日本の動向に絞って想像力を働かせよう。

 緒戦段階では、米国は在日米軍基地から米軍を出動させ、台湾防衛と中国軍の拠点攻撃を試みるだろう。この時点で日本には「重要影響事態(旧周辺事態)」を認定するオプションがある。具体的には、自衛隊に米軍の後方支援をさせたり民間港湾や飛行場を米軍に使わせたりする。もちろん、状況によってはこの段階でいきなり後述の「武力攻撃事態」を認定し、自衛権の発動に踏み切る可能性も否定できない。一方で中国側から見れば、台湾を制圧する(=米軍を封じる)ためには在日米軍基地を叩くことが不可欠である。

これが一昔か二昔前なら、中国軍の実力は米軍よりも大幅に劣っていたため、中国軍が在日米軍基地を攻撃しようとしても公海上で米軍に撃退されるかもしれなかった。となると、自衛隊は非戦闘地域で対米後方支援だけを行い、中国軍との間では直接戦闘に及ばなくて済む、という事態が(少なくとも理論上は)あり得た。中国側は自衛隊が米軍に後方支援した時点で日本と交戦状態に入ったとみなす。しかし、自衛隊が中国軍と前線で戦わない以上、米国民から「日本は米国と共に戦わなかった」と批判されれば、全面的に反論することはできなかった。

 だが今日では中国軍の実力が格段に向上した。中国軍は射程500~5,500㎞の地上発射ミサイルを約2,000発保有し、その多くは精密誘導型で米空母なども狙えるのに対し、米軍は事実上ゼロ。新戦略に基づいてこれから漸次配備する方針だ。[i] 軍事において〈数〉を侮ってはいけない。中国側にこれだけの数のミサイルがあれば、日米のミサイル防衛システムではどうにも防ぎようがない。

今日、台湾有事をめぐって米中が〈本格的に〉軍事衝突すれば、中国は間髪を入れずに在日米軍基地をミサイル攻撃し、被害が出ることは必定。中国が自衛隊基地や米軍が使用する民間港湾・飛行場をミサイル攻撃しても驚きはない。在日米軍基地等が攻撃された――正確に言えば、中国側に攻撃の「着手」が認められた――時点で日本政府は「武力攻撃事態」を認定し、中国に対して個別的自衛権を行使することになる。2015年に成立した安保法制で導入された「存立危機事態」を同時認定して〈集団的自衛権行使との併用〉とすることも可能だ。いずれにしても、米中が開戦するのとほぼ同時に――数分後から数時間後の幅で――日本も中国と戦い始めるというシナリオが濃厚である。将来、在日米軍が長距離ミサイルを配備すれば、米軍は公海上や日本の島嶼部を移動しながら中国軍をミサイル攻撃する。自衛隊が持つ長距離ミサイルによって中国軍を攻撃することももちろん、ありえる。逆に、こうした米軍や自衛隊に対して中国軍はミサイル攻撃を企てようとする。



≪事実上の双務性≫

理屈の上では日本政府に「中国と戦わない」という選択肢がないわけではない。例えば、日本が中台有事では完全中立を貫き、在日米軍基地の使用を許可しないという決断を下した場合。日米同盟破棄につながる話だが、近年の中国の言動を踏まえれば、世論が支持する可能性はまずない。

今日、米中対立が先鋭化し、米国は国家安全保障戦略で中国を最大の脅威と位置付けている。そして、米中双方がミサイルの長射程化と命中精度の向上を競い合っている。さらに、米中が戦う時の最前線は日本列島、特に南西諸島となる。こうした条件が重なった結果、米中の戦争はほとんど例外なく、「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃」を惹起する。したがって、日米安保条約を改定せずとも、日本は事実上、米国を守るために中国と戦わなければならなくなるのである。

米中戦争の主戦場は両軍のミサイルの射程が重なる日本、台湾、そして中国となる。サイバー攻撃を別にすれば、戦争がエスカレートしてICBMが使われでもしない限り、米本土が戦場となる可能性は低い。

 日本を攻撃する能力を持った国は、中国、北朝鮮、ロシアの3カ国。これら3カ国が日本列島に存在する米軍基地をスルーして米本土を攻撃するシナリオに現実味がない。米露、米朝が開戦する場合は、米国の敵は自らの脇腹に突き付けられた刃のような存在である在日米軍基地を攻撃しないわけにはいかない。その結果、日本は米国の戦いに半ば自動的に参戦する可能性が極めて高くなる。これでも「日米安保は片務的だ」と言う人は、米国に負い目を持つのがよほど好きなのに違ない。



≪地位協定、駐留軍経費負担との連動≫

 現在の日米同盟の構造は、日米とも口には出さないものの、日米安保の片務性を前提に成り立っている。日米安保が事実上、双務性を持つに至れば、日米同盟や日米関係そのものに甚大な影響を与える可能性がある。と言うか、日本が普通の国なら、米国に対して物申すべきことがたくさん出てくるはずである。

 そもそも、「5条の持つ防衛義務の片務性を埋め合わせするために6条で米軍基地を日本の領土内に置かせている」という説明は成り立たなくなる。今後も米軍基地を置くと言うのであれば、米国に地代や手数料を請求してもいいくらいだ。

日米地位協定はこのままでよいのか? 「日本は米国に守ってもらうだけだから」という引け目からか、日本政府はこれまで、欧州並みの地位協定改定を米国に要求したことがない。今後は日本も米国を守るために一緒に戦うことになるのであれば、もう我慢する必要などない。地位協定は第27条で「いずれの条についてもその改正をいつでも要請することができる」と定めている。ルール通りに改定を求めるのが筋というもの。米国が在日米軍への長距離ミサイル配備を求めてきた時は、日米地位協定の改定を持ち出すチャンスかもしれない。

 トランプが求める駐留経費の増額要求――現在の4~5倍を吹っかけてきているらしい――に対しても、断固拒否してよい。むしろ、減額交渉で切り返してもよいくらいだ。交渉が決裂しても困るのは向こうである。

 このような〈日米安保修正主義〉は、米共和党内では主流となっているトランプ的な同盟観=「同盟国は安保で米国にタダ乗りしている」と真っ向からぶつかる。米国サイドは「日本がそんな非友好的な要求をするのなら、米軍は出て行っても構わない」と凄んでくるだろう。バイデン政権が成立したとしても、「米軍は日本を守るために駐留している」「長距離ミサイルを在日米軍に配備することも日本を守るために必要だ」と言ってくるに違いない。外務省や日米安保村の方々も「地位協定や駐留軍経費の問題で日米が揉めたら、日米の間に楔を打ち込みたい中国の思う壺(だから、日本は黙っていた方がよい)」と〈したり顔〉で説教する姿が目に浮かぶ。

その時、日本人はこれまでのように怯むのか? 先ごろ辞任を表明した安倍晋三総理は「戦後レジームからの脱却」を唱えていた。私に言わせれば、日本人が脱却すべき戦後レジームの最たるものは〈米国への属国根性〉である。



指揮権の実態

 現実問題として、装備、指揮系統、実戦経験などすべての面で自衛隊は米軍に大きく劣っている。これだけ実力の違う軍隊が一緒に戦えば、〈主従関係〉のようなものが出てくることは避けられない。



≪指揮権~誰が主導するのか?≫

米韓同盟においては、在韓米軍が韓国軍の戦時作戦統制権を保有している。そのため、韓国側に不満はあるものの、戦時に両軍の間で指揮権の問題が起きることはない。(米韓の間では2020年代半ばを目途に、米軍が持つ戦時作戦統制権を韓国軍に移譲する予定となっている。ただし、この種の合意はこれまでも期限が近づく度に延期されてきた。実際にどうなるかは予断を許さない。)これに対して日米同盟では、自衛隊と米軍がそれぞれ独立した指揮権を持つ。両軍の間では下図のような「同盟調整メカニズム」を活用し、調整しながら各々が作戦を決定・実行するという建前になっている。[ii]



ミサイル時代の戦時には、各国政府は極めて短時間で重大な判断を下すことを求められる。それでなくても、日本政府は戦後75年間、武力行使に関わる意思決定に無縁だった。しかも、米軍と自衛隊の間には、火力(fire power)はもちろん、指揮・統制・通信・コンピュータ・情報・監視・偵察(C4ISR)の面で断絶的な能力格差が存在する。これでは、形式的に指揮権が独立していても、実際問題として日本側は米側の判断――戦術レベルではAIで自動化されたものを含む――を追認するしかない、という事態が起きがちであろう。

米軍の情報に基づき、米軍の実質的指揮の下に自衛隊が中国軍を攻撃する、という姿を想像するのは気分のよいことではない。最近、河野太郎防衛大臣は「ファイブ・アイズ」と呼ばれる米・英・豪・加・NZの機密情報共有シンジケートへの日本参加に食指を動かしている模様だ。そんな簡単な話ではないと思うが、仮に「シックス・アイズ」になったとしても、日本自身が自前の諜報力を得る努力を倍加させなければ、結局のところ、他国の情報に振り回されることに変わりはない。



≪「着手」や「自衛のための必要最小限」も米国が決める?≫

自衛隊の指揮権を米軍が実質的に握ることがあれば、憲法9条との関係で原理的に極めて重大な問題を惹起することになる。

将来、自衛隊が中国本土に届く長距離ミサイルを配備したと仮定してみよう。敵の領土をミサイル攻撃することに関する憲法論議は、64年も前に一応の決着を見ている。1956年に鳩山一郎内閣が示した「誘導弾等の攻撃を受けて、これを防御するのに他の手段がない時、独立国として自衛権を持つ以上、座して死を待つべしというのが憲法の趣旨ではない」という政府見解のことだ。その後も歴代内閣は、敵が攻撃意図を明示し、燃料注入その他の準備が確認されれば、日本に対する武力攻撃の「着手」があったとみなし、日本が武力行使することは法理上可能である、としてきた。

この整理の仕方は国際法の考え方にも合致している。相手から攻撃を受ける前に自ら攻撃した場合でも、敵方に武力攻撃の「着手」があったとみなされれば、合法な「先制攻撃」と位置付けられる。一方、相手方に「着手」がないのに先に武力行使に及べば、「予防攻撃」として違法とされる。なお、時々耳にする「先制攻撃は国際法違反」という議論は、この二つを混同したものと考えられる。

理屈の世界ではそういうことだが、現実の世界ではきれいに片付く時ばかりではない。問題は、「着手」の有無をどうやって判断するか、である。現代のミサイルは固形燃料が中心だから燃料注入など確認できない。サイロに隠したりトラックで移動させたりするから、衛星等で捉えられるとも限らない。部隊の動きや通信傍受によって状況証拠を重ねるしかないのが現実である。2003年イラク戦争の開戦に際し、米国はフセイン政権が大量破壊兵器を開発しているという証拠を示したが、戦後、間違いだったと判明。着手の判断が常に正しく行われるわけではないことを思い知らされたものだ。

あくまで仮定の話だが、米中戦争が起きるとすれば、いずれかのミサイル攻撃から始まる可能性が高い。前述のとおり、米中が交戦状態に入れば、日本は集団的自衛権(存立危機事態)か個別的自衛権(武力攻撃事態)かにかかわらず、中国に対して自衛権行使、つまり武力行使を行う可能性が非常に高い。中国側の「着手」がないのに米軍が「予防攻撃」に出た結果、日本も中国と交戦状態に突入する、ということがあってはならない。

自衛隊が中国軍の動きを探知すると言っても、現実には米軍の諜報力に依存する部分が圧倒的に大きい。しかも、ミサイル時代に許される〈持ち時間〉は極めて短い。米国が「中国軍に武力攻撃『着手』があった」と言ってきたとき、日本側は「米軍がそう言っているから」というのではなく、その根拠を確認できるか否かは致命的に重要だ。

憲法との絡みでもう一つ。自衛隊に憲法上許される武力行使は、集団的自衛権であろうと個別的自衛権であろうと、「自衛のための必要最小限」にとどまることが求められる。一方で米軍は、自衛隊よりもずっと〈緩い〉縛りの中で軍事的合理性に基づく作戦を実行し、自衛隊にも同調を求めてくるだろう。

開戦時も開戦後も、憲法9条に関わる判断が米軍に左右される可能性がある。そのことを我々は肝に銘じておかなければならない。



米軍再編への影響

 AVP 8号で述べたとおり、米軍が検討中の新戦略では、米軍をグアム以遠に分散させる〈スタンド・アウト〉は好ましくない、という方向性がほぼ固まってきている。ところがこの方向性は、在沖海兵隊をグアムなどに分散させるという米軍再編の日米合意との間で潜在的に矛盾を孕む。昨年5月、議会証言に立った海兵隊のロバート・ネラー司令官(当時)はその点を質問され、「現在構想されているような形での計画は、もしかすると見直す価値があると思います。それは私の個人的な、そして職業軍人としての意見です」と答えた。(動画では、質問を受けたネラーが戸惑って暫し沈黙した後、意を決して発言したように見える。[iii] )

日米合意は政府間合意である。大将とは言え、一軍人が何か言ったくらいでひっくり返るものではない。現司令官のデヴィッド・バーガーも現在策定中の海兵隊戦略の前提について、在沖海兵隊の人数が増えることはないと明言している。[iv]

だがそれでも、米軍新戦略の下で米国政府が米軍再編の〈新しいディール〉に興味を示す可能性は多少なりとも出て来るだろう。南西諸島や日本列島で米軍の小規模機動部隊が活動できる余地を広げることは、米軍新戦略を実行するうえで必須の要請事項だからだ。

辺野古の普天間代替基地についてはどうか? 中国が精密誘導ミサイルによって容易に狙い撃ちできる〈固定化された埋め立て基地〉の建設に何千億あるいは数兆円もかけるなど、米軍人の眼には「狂気の沙汰」と映っているに違いない。ただし、米軍にしてみれば、辺野古の建設費用がいくらかかっても痛むのは日本政府の財布だ。技術的問題で工期が長引いても、完成するまでは普天間を自由に使える。どうでもよいと言えばどうでもよい話だろう。

日本が物事を戦略的に考える国であれば、「辺野古の埋め立てに1兆円以上かけたところで、対中抑止力は少しも改善しない。それなら埋め立てを中止し、最新装備の購入に充てた方がよい」という意見が出てくるのが普通だ。しかし、辺野古の埋め立てを中止すれば、「普天間は返ってこない」という結論になる可能性が相当高い。日本の政治家・官僚の習い性からすると、「そんな政治的に面倒くさい判断はしたくない」ということになる可能性が高いか。



おわりに

 在日米軍への長距離精密誘導ミサイル配備を認めるか否かの判断は、日本の防衛戦略、日米関係、日中関係に深刻な影響を与える。それのみならず、日米同盟の〈管理面〉にも多大な変更を及ぼし得る。

ここで「及ぼし得る」と書いたのは、日本政府が戦後の惰性を引きずるかもしれない、という懸念があるため。取り越し苦労ならよいのだが、地位協定や日米指揮権などへの波及について、我が国の政府なら敢えて目をつぶりかねない、と思ってしまう。

それでは駄目だ。同盟の中で自己主張できない国に対し、米国や中国はもちろん、世界の国々が一目置くことなどあるわけがない。ここで根性を見せずにいつ見せると言うのか。





【筆者プロフィール】
須川清司(すがわ きよし)
1983年、早稲田大学政治経済学部を卒業し、住友銀行(現在の三井住友銀行)勤務。資金為替部、シカゴ支店、シンガポール支店等を経て1995年に同行退職。1996年、シカゴ大学大学院国際関係学科修士課程を修了後、民主党勤務。政策調査会及び役員室部長代理。1999年9月から翌年6月まで米ブルッキングス研究所客員研究員。2009年10月から2012年12月まで内閣官房専門調査員を兼務。2013年以降は民主党政策調査会部長。2020年3月、国民民主党を退職し、同年4月より現職。著書に『米朝開戦』(2007年、講談社)『外交力を鍛える』(2008年、講談社)。



[ⅰ] https://jp.reuters.com/article/china-missile-special-report-idJPKCN1S12IX

[ⅱ] https://www.mod.go.jp/j/approach/anpo/shishin/pdf/ACMandBPM.pdf#search='%E5%90%8C%E7%9B%9F%E8%AA%BF%E6%95%B4%E3%83%A1%E3%82%AB%E3%83%8B%E3%82%BA%E3%83%A0'

[ⅲ] https://www.appropriations.senate.gov/hearings/review-of-the-fy2020-budget-request-for-the-navy-and-marine-corps

[ⅳ] https://www.stripes.com/news/pacific/marines-aim-to-send-mobile-anti-ship-units-to-japan-with-eye-on-defending-against-china-1.638644

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