東アジア共同体研究所

Alternative Viewpoint

菅内閣の政策的評価基準~「デジタル庁」にごまかされないために Alternative Viewpoint 第11号

菅内閣の政策的評価基準~「デジタル庁」にごまかされないために



Alternative Viewpoint 第11号

2020年10月9日


はじめに

9月16日、健康上の理由で退任した安倍晋三総理に代わり、菅義偉前官房長官が内閣総理大臣に就任した。新内閣発足後、安倍政権末期に低迷していた内閣支持率は軒並み高騰している。まずは〈おめでたい〉ことである。

新政権が発足したら100日間程度は「ハネムーン」としてメディアも国民も温かい目で見守るのが民主主義の不文律、と聞く。だが、菅は官房長官として7年8ヶ月も前政権の大番頭だった。100日も猶予期間を与える必要はあるまい。今月26日に臨時国会が始まれば、ハネムーンは終わりでよい。

コロナ禍の下、今の日本では疫学・経済両面におけるパンデミック対策が喫緊の課題である。最近のAVPで繰り返し述べているように、米中対立が激化する中で日本外交の舵取りをどうするか、という難題も新政権の前に立ちふさがる。ところが、菅総理はこれまでのところ、「デジタル庁」の一本勝負。それにマスコミが提灯をつけ、「菅内閣はすごい」というイメージを醸成しているのが今日の状況だ。

本号では、今話題のデジタル庁構想についてコメントした後、菅総理が言う「安倍政権の継承」の意味を政策面から考え、新型コロナ対策について菅内閣に若干の注文をつける。ハネムーンが終わったあと、菅内閣を採点する際の参考になれば幸いである。





「デジタル庁」狂騒曲

 今や菅政権の目玉政策となった感がある「デジタル庁」と「デジタル化」。ただし、安倍がやめていなければ、このテーマは安倍政権の目玉政策になっていたと思われる。



≪「デジタル化」は次の総理の既定路線だった≫

デジタル化の元をたどれば、2018年6月に設置された「統合イノベーション戦略会議」。議長は当時の官房長官、すなわち菅義偉現総理であった。この会議体を通じ、政府のAI戦略やバイオ戦略などがまとめられてきた。

今年6月26日に開かれた同会議に「新型コロナウイルス感染症を踏まえた科学技術・イノベーション政策の方向性」という資料が竹本直一IT担当大臣――78歳で初入閣し、この5月まで自民党はんこ議連の会長だった人物である――の名前で提出された。[i] 資料には「公的部門のデジタル化」という言葉が登場し、マイナンバー制度の活用が鍵を握る云々の記載があった。その後、7月17日に閣議決定された「統合イノベーション戦略2020」に「デジタル・ガバメント」「政府の司令塔機能の強化」という節が盛り込まれる。内容は十分に詰まっていなかったものの、今後の方向性を〈頭出し〉するものであった。

8月28日に安倍が辞意を表明し、総裁選が急遽、行われることになった。官房長官だった菅にとって、次年度に向けて各省庁で準備中の政策リストを出させることは造作もない。官僚たちも勝ち馬に乗ろうと〈いい玉〉を菅のもとに差し出す。その中から上記のデジタル化推進が菅のお眼鏡にかなった、というところであろう。その時、誰の知恵かは知らないが、菅はデジタル化推進の司令塔として「デジタル庁」を置くというアレンジを施した。これが総裁選公約の目玉となる。

総裁選で(名ばかりの)2位に入った岸田文雄も「データ庁」と「政府デジタルトランスフォーメーション推進委員会」の創設を公約していた。自民党政調会長だった岸田も、政府の動きをある程度は把握していたに違いない。

一方、石破茂は総裁選の最中、この分野で目立った政策を打ち出していない。今回、石破の劣勢は選挙になる前からはっきりしていた。官僚たちが〈負け犬〉のもとに〈おいしい政策〉を持ち込むことはない。だが万一、石破が大逆転勝利をおさめていれば、デジタル化推進は石破内閣の目玉政策になっていたであろう。デジタル化推進は政府の既定路線であり、次期総理の目玉政策となるべく決まっていたのだ。



≪改革アピールにはもってこい≫

皮肉半分で言うと、「デジタル庁」とは菅もよいところに目をつけたものだ。

内閣、与党ともに菅政権は年功序列・男尊女卑の旧態依然である。ところが、「デジタル庁」の一言で国民に改革志向をイメージさせることに成功した。デジタル化が世の中の潮流であることは誰もがわかる。今は中身がなくてもメディアの方で勝手にプラスのイメージを膨らませ、宣伝してくれる。

菅が「デジタル庁の設置を命じた」「2025年度末までに自治体の業務システムの統一を命じた」「2022年度末にはマイナンバーカードがほぼ全国民に行き渡ることを目指す」と言えば、菅のモットーである「仕事をする内閣」を演出するにも好都合である。

デジタル庁の設置そのものは、来年の通常国会に法案を出せば確実に実現できる。マイナンバーの普及などは難易度が高いが、目標年次は2023年3月や2026年3月とかなり先だ。早期解散の場合はもちろん、来年秋までの任期満了選挙であっても、目標未達を責められることはない。



≪デジタル化推進=デジタル庁ではない≫

デジタル庁を作る、と聞けば何かすごいことのように思われるかもしれない。だが、所詮は〈入れ物〉をつくるだけのこと。そんなものを作らなくても、政権トップが本気でやれば各省庁は動くし、作ったとしても政権トップが本気にならなければ誰も動かない。

私に言わせれば、デジタル庁の設計図を書き、デジタル庁設置法案を次期通常国会で通すことにかける時間とはエネルギーがあるくらいなら、デジタル化のコンテンツと実行計画の作成にかけた方がよほど有益だ。菅が「デジタル化推進のためにデジタル庁をつくる」と言うのを聞いたとき、私は「こりゃあ、ゆっくりやるということだな」と思った。

トップを民間人にするとか、時限組織にするという話まで聞こえてくる。いかにも改革志向に聞こえるが、実際には逆だ。台湾のオードリ・タンにあやかろうとして民間人をトップに据えたところで、議院内閣制の日本ではデジタル庁の権限は却って弱まる。時限組織にすれば、経産省や総務省などから出向する役人の帰属意識は古巣のままである。



≪デジタル化推進の本気度を見定める≫

菅内閣がデジタル化を本気で進めると言うのなら、それ自体にケチをつける理由はない。しかし、政治家や官僚が〈言葉〉の上で「本気だ」と言っても鵜呑みにはできない。最初に出てくるであろう判断基準は、政府が年内にも策定するという工程表となる。

マイナンバーカードの保有は、マイナポイントや利便性向上によって促すにとどまるのか、義務化するのか? マイナンバーカードと金融口座情報の紐づけを法定するのか? いずれも、これまではプライバシーへの配慮から踏み込んでこなかった。これらを〈いつまでに〉〈どこまで〉やるのか、注目したい。

デジタル化推進というテーマは、カバーする領域がものすごく広い。例えば、ファーウェイなど中国メーカーの5G機器やTikTokのようなプラットフォームの利用をどうするのか、という課題もある。日本では政府機関による中国製品の締め出しが目立ってきているが、米中の情報技術覇権競争の行方が不透明な中、米国の要請に従って中国製品を排除する方針にはリスクもある。

ドイツは連邦情報セキュリティ庁でチェックしながらファーウェイを完全排除していない。メルケル首相の携帯電話が米国に盗聴されていたことが明らかになって以来、ドイツは米国も信用していないからだ。悪さをしている証拠がはっきりしないまま中国製品を排除するくらいなら、ドイツ方式を真剣に検討した方がよい。





「安倍内閣の継承」という意味

  菅が自民党総裁選挙で掲げたスローガンは「安倍内閣の継承」であった。これによって菅は、統治の継続と安定性をアピールすると同時に、安倍的な右寄り路線を(少なくも当面は)続ける、というメッセージを送ったのだと思われる。ここでは菅政権の国内政策について「安倍内閣の継承」が持つ意味を別の角度から少し掘り下げておきたい。



≪安倍政権の政策的回顧≫

安倍政権が過去7年8ヶ月で実現させた主要政策について、国会での法律制定という観点からざっとまとめてみた。外交の交渉事は便宜上、含めていない。



  周知のとおり、アベノミクスは「3本の矢」からなる。金融緩和は8年近くにわたって日銀が一貫して行った。財政出動は、災害対策や消費税対策を含めて十分にやり続けた。成長戦略(規制緩和)は掛け声倒れでショボかった。

安倍内閣と言えば、「一億総活躍」や「女性活躍」といったキャッチコピーもあった。しかし、あまりに中身に乏しいため、上記リストからは抜いた。教育再生は一応載せてある。ただし、大学入試改革の目玉だった民間試験と記述式問題の導入には昨年、急ブレーキがかかり、実現が見通せていない。

天皇退位関連とコロナ対策は安倍政権の意志と関わりなく行われた政策なのでそれらを別にすれば、2012年12月の政権復帰以降、安倍内閣が実現した大玉政策は、安保法制あたりでピークを迎えたように見える。それ以降、安倍政権が取り組んだ政策は明らかに小玉化した。曲がりなりにも大玉と言えるのは2018年の働き方改革法、外国人労働者法が最後と言えよう。

今年1月20日――コロナ感染がこんなに拡大するとはまだ想定されていなかった頃である――に安倍が行った施政方針演説の重点は、オリンピックの成功を謳い、安倍政権の7年8か月を回顧することに置かれていた。安倍は燃え尽きようとしている、と感じた人もいたに違いない。(私もそうである。)



≪政治主導課題と行政主導課題≫

次に、法案の〈出自〉に注目してみよう。安保法制あたりまでは、政治家安倍晋三がやりたかった政策を実行するための法案が目立つ。その後は、総理が誰であろうと日本政府として取り組む必要のあった法案が並んでいる。これらは省庁の方から「総理、これをやらなければいけません」とあげてきて、安倍が「わかった」と言って首を縦に振ったものである。あるいは、前天皇の退位表明に伴って取り組まざるを得なくなったもの、コロナ対策のように一種の危機管理として行わざるをえないものもあった。いずれにせよ、安倍内閣の後半に出てきた政策の大部分は、基本的に安倍主導、政治主導ではなかった。

安倍には憲法改正という一番やりたかった政策が最後まで残っていた。しかし、公明党との関係もあり、実現の目途が立つことはなかった。外交面で安倍が最も力を入れた北方領土問題の解決も、2016年12月の下関会談以降、暗礁に乗り上げたままとなった。

かくして、安倍主導・政治主導の政策で実現可能な大玉はなくなり、安倍政権後期の政策は行政主導型に移行していった。安倍政権を継承した菅内閣の政策的な目玉が(安倍内閣の下で)行政主導で検討が進んでいたデジタル化になったのも、当然と言えば当然である。



≪菅内閣の政策は統治のためにある?≫

「戦後レジームの解体」を唱えた安倍晋三は、良きにつけ悪しきにつけ、理念の人だった。菅義偉はそうではない。こだわりがあるとすれば、携帯電話料金の引き下げやIRの推進くらいだろうか。いずれも骨太の政策テーマではない。ほかには、政治の師であった梶山静六の思いを引き継ぎ、沖縄基地問題の解決――菅にとってそれは辺野古埋め立ての断行を意味する――に並々ならぬ意欲を持っていると聞いたことがあるくらいだ。

安倍は〈権力〉や〈統治〉へのこだわりも人一倍強かった。それは第一次安倍政権が崩壊したという本人の苦い経験に根差すものであると同時に、中央集権的国家モデルを理想とする安倍の国家観に基づくものでもあった。安倍政権の「権力と統治」は、実務的には官房長官であった菅によって支えられた部分が大きい。その菅の「権力と統治」への執着は、おそらく安倍以上に大きく、もっとプリミティブなものに見える。

今回、日本学術会議会員について菅内閣は6名を任命拒否した。2016年にも安倍官邸は学術会議の会員候補に難色を示し、欠員が生じたことがあったそうだ。安倍や菅にとって、自らの統治に邪魔になりそうな者をあらかじめ排除することは為政者として〈当然の行為〉なのであろう。

菅の持つ強烈な権力嗜好性から予測すると、この総理は省庁が揃えてくる政策リストの中から自らの統治に好都合なものをピックアップし、重要政策を決めるというスタイルをとる可能性がある。その第一弾が「デジタル庁」だったと考えれば、腑に落ちる。前述のとおり、デジタル庁は新政権の統治にとって〈何度もおいしい〉テーマなのである。





肝心のコロナ対策が見えない

「デジタル庁」「デジタル化」にひきかえ、菅内閣の(追加的)コロナ対策は、一向に見えてこない。一体、どうなっているのか?

≪デジタル庁をつくってもコロナ感染はなくならない≫

今日の日本で最も喫緊の政策課題は何か? こう問われれば、ほとんどの人が「コロナ対策」をあげるだろう。ここでコロナ対策とは、感染拡大防止のために社会的隔離(ソーシャル・ディスタンス)策の実効性を高めたり医療体制を改善したりすること、検査の拡充、ワクチン開発といった疫学上の追加対策が一つ。もう一つは、コロナ禍で大きく傷ついた経済や雇用を回復させ、国民生活を安定させるための経済対策である。

菅は自民党総裁選の最中に「コロナ対策を最優先でしっかり」やる、と述べはした。しかし、具体策には何一つ踏み込んでいない。総理に就任した9月16日の記者会見でも、安倍内閣時代の漠然としたコロナ対策の方向性を繰り返しただけである。

緊急事態が解除されてから既に4か月以上がたった。感染の再拡大が懸念される冬が来るのも近い。もうそろそろ追加的な疫学上の対策が出てきてもよい頃だが、梨のつぶて。今月下旬にも開会される臨時国会に提出されるコロナ関連法案は、ワクチン接種で健康被害生じた場合に製薬会社の賠償責任を免除するものだけとなる模様である。と言うことは、法改正を必要とするような抜本的なコロナ対応の改善が実現するのは、どんなに早くても来春以降になる。「何なんだ、この国の政府は!」と思わざるを得ない。緊急事態宣言下にあれだけつらい思いをしたのに、もう「喉元過ぎれば」状態に陥っているのだろうか? 

その替わりとでも言うつもりなのか、菅は「今回の新型コロナウイルスへの対応において、デジタル化について様々な課題が明らかになった」と述べ、デジタル化推進の意義を強調している。なるほど、菅の唱えるようにデジタル化が推進されれば、コロナ対策の一部が実行されやすくなる面は確かにあるだろう。例えば、国民が煩雑な申請手続きをとらなくても給付金が振り込まれるようになるかもしれない。デジタル化の推進が日本経済の新しいエンジンになることも総論としては正しい。しかし、デジタル化は防疫・経済両面にわたる広義のコロナ対策の部分解にすぎない。感染が拡大した時に給付金が早くもらえることより、次の感染拡大を起こさないような対策をとってもらうことの方が我々にとってははるかに大事だ。デジタル庁を創ってもコロナはなくならないし、ハンコをなくしてもコロナはなくならない。ごまかされると思ったら大間違いである。



≪政府は「コロナ対策が成功した」と思っている?≫

 日本国民の多くは政府(安倍政権)のコロナ対策をあまり評価していない。例えば、読売新聞が8月7~9日に実施した世論調査では、政府のコロナ対応を「評価する」は27%だったのに対し、「評価しない」は66%だった。[ii] 多くの人は、政府の対応が不十分だったにもかかわらず、日本人の国民性や社会・医療上の習慣が幸いして感染レベルを国際的に見て低く抑えることができた、と考えているのだろう。

では、日本政府も同様の認識なのだろうか? 実はそうでもなさそうだ。以下は、緊急事態宣言を全面解除した5月25日の会見で安倍が語った言葉である。(太字強調は筆者による。)[iii]

我が国では、緊急事態を宣言しても、罰則を伴う強制的な外出規制などを実施することはできません。それでも、そうした日本ならではのやり方で、わずか1か月半で、今回の流行をほぼ収束させることができました。正に、日本モデルの力を示したと思います。

日本の感染症への対応は、世界において卓越した模範である。先週金曜日、グテーレス国連事務総長は、我が国の取組について、こう評価してくださいました。

我が国では、人口当たりの感染者数や死亡者数を、G7、主要先進国の中でも、圧倒的に少なく抑え込むことができています。これまでの私たちの取組は確実に成果を挙げており、世界の期待と注目を集めています。

 安倍のこうした言葉から悔恨の念や反省を読み取ることはむずかしい。それでなくても、安倍はもともと経済へのダメージを懸念し、社会的隔離の導入・強化に消極的だった。以下の発言からもわかるとおり、追加的にとるべき疫学上のコロナ対策についても、安倍の危機感は今一つ弱い。

こまめな手洗い、今や外出するときはほとんどの方がマスクを着けておられます。店のレジは、人と人との距離を取って列をつくるなど、3つの密を避ける取組を実践してくださっています。こうした新しい生活様式をこれからも続けてくだされば、最悪の事態は回避できると私は信じます。

こうした取組を重ねてもなお、感染者の増加スピードが再び高まり、最悪の場合には、残念ながら2度目の緊急事態宣言発出の可能性もあります。しかし、私は、外出自粛のような社会経済活動を制限するようなやり方はできる限り避けたいと考えています。市中感染のリスクを大きく引き下げていけば、それが可能となります。

 これでは、いくら待っても、本格的なコロナ対策など出てくるはずがない。問題は、菅が安倍のこの認識を引き継いでいれば、菅内閣でも疫学的コロナ対策の改善は大して望めない、ということ。菅も安倍の過ちまで引き継ぐことはないのだが、答はもうじきわかるだろう。 





求められるコロナ対策

  最後に、私がやるべきだと思うコロナ対策のいくつかを以下に列挙し、菅内閣への注文とする。



〇 PCR検査の拡充

今は幸い、新型コロナの感染は小康状態にある。しかし、安心するのはまだ早い。特に、外国との往来が再開されれば、リスクは高まる。オリンピック・パラリンピックが開催されれば、なおさらそうだ。その時に現在の貧弱なPCR検査体制ではパンクするのが目に見えている。海外とのビジネスやインバウンドを復活させる際にも、間違いなく足を引っ張る。

PCR検査がなかなか増えないことについては、今に至っても〈目詰まり〉の理由がわかっていない。直感的には、医系技官、保健所、医学界なども絡む〈厚生行政の奥の院〉の問題のような気がするが、確証はない。菅が「行政の縦割り」「既得権益」「あしき前例主義」を打ち破ると言うのなら、まず取り組むべきはPCR検査の〈目詰まり〉の理由を明らかにし、検査能力を飛躍的に拡充することである。



〇 マスク着用規制

日本の場合、マスク着用は法律上の義務ではないし、罰則もない。それでも日本人は社会的同調性が強いため、ほとんどの人が黙ってマスクを着けている。しかし、すべての人がそうするわけではない。外国との往来が再開すれば、マスクをしない外国人への対応で揉めるケースやそれによって感染が拡大するケースも出てくるだろう。

感染状況や非常事態宣言と連動させるのか、公共施設に限るのか等の検討を含め、マスク着用の義務化や罰則の導入を行うべきではないのか。もちろん、その場合は法改正が必要になる。



〇 営業停止や外出制限の強制力

緊急事態宣言が出された際、知事による営業停止の指示に従わない店舗や外出制限に従わない人も皆無ではなかった。都道府県によっては法律に基づかない緊急事態宣言を行ったところもあったが、その際に知事が出した要請は〈お願い〉ベースのものだった。日本人の社会同調性だけに頼って次回も(まあまあ)うまくいく保証はない。罰則の付与を含め、ある程度強制力を与えた方がよい。なお、私は「営業停止する店舗には必ず補償する」という考え方には反対である。

知事会も見直し要望をまとめている。[iv] それらも含めて政府で吟味し、インフルエンザ等対策特措法を含め、必要な法改正を行うべきだろう。今から作業したのではもう臨時国会には間に合わない。せめて来年の通常国会冒頭で本予算審議の前(解散前?)に改正案の成立を図るくらいのスピード感が必要だ。本予算成立後だと、施行されるのは春以降になってしまう。



〇 経済対策

新型コロナによる経済的なダメージに対処するため、安倍内閣は二回にわたって補正予算を組んだ。事業規模にして200兆円を超え、安倍に言わせれば「GDPの4割に上る空前絶後の規模」にのぼる。

しかし、米国を含めた海外の感染状況まで見渡すと、コロナ禍が年を越して長期化するのは必至の情勢である。となると、来年度以降も経済対策や生活保障を打て、という声が高まることは避けられない。選挙が取りざたされる昨今の状況においてはなおさらである。

来年度もこうした給付を続けるのか? 給付金とは別の財政出動を行って経済を刺激するのか? 野党が言うように消費税を下げる(または凍結する)のか? いずれにしても、この冬の感染拡大を防止することができなければ、〈穴の開いたバケツに水を入れる〉ようなものだ。来年の通常国会冒頭に出てくると言われる補正予算も、前述の強力な感染防止対策とセットでなければ、「政府・与党の選挙対策」と謗られよう。



〇 GoToキャンペーンの始末

世の中はGoToキャンペーンで盛り上がっているようだ。公明党の山口代表は、人気取りのためか、キャンペーンの延長を菅総理に直訴したらしい。しかし、感染状況が改善すれば、これまで旅行を我慢していた人たちや海外旅行するはずだった人たちの需要によって旅行がある程度盛り返すのは当然だ。ムードではなく、GoToキャンペーンの効果を検証した方がいい。特定業界の救済のために税金を投入し続けるのも変な話である。

東アジアに限ってみれば、感染は随分収まってきている。WHOによれば、10月7日の新型コロナ新規感染者数は、中国=18人、韓国=114人、日本=496人である。この3か国相互間で先行して観光客の往来(出入国時の2週間待機なし)を規制緩和すれば、GoToキャンペーンなんかとは比べ物にならない効果があるはず。もちろん、最初は受け入れ人数枠は絞って始め、段階的に増やすことや、国内感染が増えたら相互に受け入れを停止するという条件は必須である。ポイントは、世界一律の対応とせず、感染レベルの低い日中韓が先行すること。1日の感染者数が3万8千人を超える米国と一緒にしたら、外国人観光客が日本に戻ってくる日はいつになるかわからない。



〇 オリンピック

以上に加えて、来年の東京オリンピック・パラリンピックをどうするのか、という大問題もある。莫大な追加費用と経済損失が見込まれるためか、今のところ、政府も東京都もあくまでもやる姿勢を崩していない。コロナ対策とオリンピック開催の両方にエネルギーを注ぐことは、大規模な二正面作戦にほかならない。コロナの再流行がなければよし、あれば惨状が待っている。これではまるで博打だ。





おわりに

  菅は総理大臣に就任した時、「国民のために働く内閣」にすると言った。菅内閣の評価はこの言葉に基づいて下すべきだろう。働くかどうかは、〈振り〉ではなく〈中身〉と〈スピード〉で判断したい。もう一つ、国民のためになるかどうかも重要である。日本学術会議会員の任命拒否騒動は、菅の言う「国民」が「政権の支持者」を意味することを示唆している。懸念を持ちながら、今少し見守りたい。





[i] https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tougou-innovation/dai7/siryo1-1.pdf

[ii] https://www.yomiuri.co.jp/election/yoron-chosa/20200809-OYT1T50195/

[iii] https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2020/0525kaiken.html

[iv] http://www.nga.gr.jp/ikkrwebBrowse/material/files/group/2/shingatakoronauirusukansensyonikansurukinkyuteigen%2020200926.pdf




【筆者プロフィール】
須川清司(すがわ きよし)
1983年、早稲田大学政治経済学部を卒業し、住友銀行(現在の三井住友銀行)勤務。資金為替部、シカゴ支店、シンガポール支店等を経て1995年に同行退職。1996年、シカゴ大学大学院国際関係学科修士課程を修了後、民主党勤務。政策調査会及び役員室部長代理。1999年9月から翌年6月まで米ブルッキングス研究所客員研究員。2009年10月から2012年12月まで内閣官房専門調査員を兼務。2013年以降は民主党政策調査会部長。2020年3月、国民民主党を退職し、同年4月より現職。著書に『米朝開戦』(2007年、講談社)『外交力を鍛える』(2008年、講談社)。

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