東アジア共同体研究所

Alternative Viewpoint

尖閣問題を考える~その2. 尖閣をめぐって日中が戦えばどうなるか? Alternative Viewpoint 第13号

尖閣問題を考える~その2. 尖閣をめぐって日中が戦えばどうなるか?



Alternative Viewpoint 第13号

2020年10月30日



 前号(AVP 第12号)で述べたとおり、尖閣諸島の実効支配を強化しようとすれば、日中の武力衝突につながる可能性が高い。だとすれば、我々は「日中が尖閣をめぐって武力衝突すればどのような事態になるのか」についての相場観を持っておく必要がある。それがないままに実効支配の強化を叫ぶことは〈匹夫の勇〉以外の何ものでもない。

尖閣問題を考える第2弾となる本号では、公刊情報を用いながら「日中戦争が起きたときの帰結」を想定してみたい。



尖閣有事のシミュレーション

尖閣諸島をめぐる日中有事の帰結は、米国や中国にとっても重大な関心事である。米軍も中国軍も詳細な机上演習――“war game”の和訳としてこの言葉を使っている――を行っているはず。残念ながら、我々にその内容を直接知る術はない。だが幸いなことに、米国ではシンクタンク等が軍人OBや防衛産業を含む専門家を動員し、様々なシミュレーションやシナリオ想定を行ってその結果を公表している。そこにヒントを求めよう。

以下、米国の文献から3つのシミュレーションと2つのシナリオ想定を新しい順に紹介していく。



≪1. 新米国安全保障センター≫

2020年7月、米国のシンクタンクである新米国全保障センター(CNAS)が尖閣有事のシミュレーションを実施した。[i] その進行は、米国やカナダ等の一般参加者400人に選択肢を提示し、彼らが多数決で選んだ行動を日米と中国の政府がとる、という形で行われた。この手のシミュレーションでは専門家が各国政府の役割を演じるのが一般的。その意味ではユニークな試みである。

CNASのシミュレーション結果は以下のようになった。



1 2030年、中国軍が魚釣島に上陸。日本は自衛隊を派遣する。

2 米軍は「自衛隊を支援せよ。ただし、中国軍との戦闘は回避せよ」という命令を受け、2空母打撃群等を展開する。中国軍も米軍を攻撃しないよう命令を受けた。

3 緒戦段階では、米中両軍が相手の指揮命令系統を狙ってサイバー攻撃を仕掛けた。

4 東シナ海上で中国軍がミサイル攻撃によって多くの海自護衛艦(駆逐艦)を沈める。

5 自衛隊は中国の潜水艦を破壊する一方、日米の空軍機が中国軍機(ドローンを含む)を撃墜して損害を与えた。

6 中国軍は米空母をミサイル攻撃し、大破させる。加えて、那覇、嘉手納の空軍基地をミサイル攻撃し、深刻なダメージを与えた。

7 対立が膠着状態に陥ったところでシミュレーションは終了。この時点で中国軍は尖閣を保持したままであった。



このシミュレーションでは、米中がともに当初は米中両軍の直接戦闘を避けようとした。しかし、戦局がエスカレートするに従い、結局は相手を攻撃することになった。





≪2. ヨシハラ≫

2020年5月、戦略予算評価研究所(CSBA)のトシ・ヨシハラは『竜 対 太陽:日本の海軍力に関する中国の見方』という報告書をまとめた。その報告書の中で、中国人研究者が著した文献を参照しながら、ヨシハラは日中武力衝突に関する中国側のシナリオを一部紹介している。[ii]

中国側のシナリオの一つは以下のようなものだ。中国で公開された文献を参照しているため、中国にとって都合の悪い想定や結論は出てこない。その辺りは割り引いて読む必要がある。



1 尖閣沖で対峙していた海保の巡視船が海警に射撃を加え、中国人乗組員が負傷した。海警も応射。海保と海警は一旦引き上げるが、日中両国政府は尖閣諸島へ軍を上陸させようとする。

2 中国側は遼寧空母群を宮古海峡に派遣し、日本側の上陸作戦を妨害。

3 東シナ海上では中国軍のJ-20ステルス戦闘機が自衛隊のE-2C早期警戒機とF15戦闘機を撃墜。(筆者註:書かれた時期が古いのか、F-35等は出てこない。)

4 中国軍のロケット軍と空軍が自衛隊の那覇空港を巡航ミサイル及び弾道ミサイルで攻撃。中国軍のミサイルは自衛隊のミサイル防衛網を圧倒し、那覇空港は使用不能となる。その結果、中国側は開戦から約24時間で制空権を確立した。一方で、中国軍は米軍嘉手納基地を攻撃せず。

5 米大統領は中国に経済制裁の脅しをかけた。しかし、尖閣には自国の死活的利害が関わっていないとして日米安保条約(第5条)の発動を拒否する。

6 宮古海峡の西側の海上及び空中で自衛隊と中国軍が激突。中国側は巡洋艦を失い、後退する。一方で、中国空軍は尖閣へ向かう海自部隊を捕捉し、対艦巡航ミサイルで2隻の護衛艦(駆逐艦)を沈めたほか、他の海自艦船も大破させる。

7 開戦から4日目、中国の対潜哨戒機が海自潜水艦を沈没させる。同日、中国軍が尖閣への上陸を果たした。



 ヨシハラは中国側のもう一つのシナリオについても触れている。そちらでは、自衛隊がF-35Bを艦載した「いずも」型護衛艦を中心に船団を組んで中国軍に対抗する。そのため、最初のシナリオよりも自衛隊が善戦する展開となっている。だが最終的には、中国軍によるミサイル攻撃で那覇空港を破壊され、日本側が不利に陥る。なお、第二のシナリオでも中国軍は米軍嘉手納基地を攻撃せず、米軍は介入しないことになっている。





≪3. オハンロン≫

 2019年、ブルッキングス研究所のマイク・オハンロンは『尖閣パラドックス』を出版した。オハンロンは中国が尖閣に軍事侵攻した際の日米の対応について、次のような2つの選択肢を披歴している。[iii]



【選択肢1】 尖閣諸島に上陸した中国軍を爆撃する。

数年前、第3海兵遠征軍司令官だったジョン・ウィスラー中将が述べていた考えであり、軍事的にはこれが最も効果的である。ただし、中国軍が尖閣上陸の口実に一般人(漁民など)を絡めてきた場合、空爆はしづらくなる。

また、空爆によって中国人兵士だけが犠牲になった状況で中国側が矛を収めるとは考えにくい。その場合、尖閣への空爆だけで戦闘が終わらず、エスカレートする危険性が残る。



【選択肢2】 日米で尖閣諸島を封鎖する。

海上封鎖はキューバ危機の時にも前例がある。ただし、中国側が日米による封鎖を解除しようとして動けば、事態はエスカレートする。

この地域で日米中が本格的な戦闘に及ぶ場合、中国は大陸の中部及び南部の沿岸にある基地に、日米は南西諸島や九州を中心にした自衛隊基地と在日米軍基地に大きく依存する。したがって、日米中の戦いがエスカレートして敵軍の基地を攻撃する事態となれば、戦域は尖閣諸島のある東シナ海を超え、日中双方の人口密集地帯に及ぶ可能性がある。



米中の衝突がエスカレートした時の展開予測をオハンロンが描くのは、尖閣有事の項ではなく、台湾有事の項においてである。尖閣諸島のような無住の島嶼を巡って核保有国同士がエスカレーションの危険を冒すことにオハンロン自身が極めて懐疑的だからであろう。

参考までに紹介すると、オハンロンは米中戦争について、予測は困難だとしながらも以下のようにコメントしている。

1 米中双方は衛星と指揮命令系統の大半を攻撃され、「不確実性の霧」の中で戦わなければならない可能性が高い。

2 判断はむずかしいが、第5世代戦闘機と新型攻撃潜水艦の差で現状は米軍がやや有利であろう。

3 台湾からの距離など「地理」の面では中国側が圧倒的に有利である。また、中国軍も攻撃潜水艦や精密誘導攻撃能力を向上させてきている。

4 米国政府は米軍に数千人規模の戦死者を出し、核戦争となるリスクがあることを覚悟しなければならない。

5 通常戦闘で不利に陥った場合、中国は、①米本土の電力網に対するサイバー攻撃、②米空母に対する核ミサイル攻撃、③嘉手納上空での高高度核爆発(電磁パルス攻撃)等の手段に訴えるかもしれない。その場合、米国は核兵器の使用を検討する可能性がある。





≪4. 笹川財団(米国)≫

2017年3月、笹川財団(米国)は相当に大掛かりな机上演習を行っている。防衛問題等に関わった日米の政府関係者OBがそれぞれ日本政府と米国政府の役割を、米国人の中国専門家が中国政府の役割を演じ、以下の4つのシナリオについてシミュレーションした。[iv] 

いずれのシナリオでも「中国の動きに日米両国政府が一致して毅然と対応した結果、中国側は腰砕けになった」という(予定調和の)結果となったため、日中戦争は起きない。〈戦争の手前の危機段階〉に焦点を当てたシミュレーションのつもりで読んでいただきたい。



【 シナリオ1 】 中国が多数の海警と海軍を尖閣に派遣する。それを受け、日本政府のみならず米国政府も警戒を強め、警戒態勢を強化。中国は日本の原子力発電所にサイバー攻撃を仕掛けた。米国は却って対決姿勢を強め、日本も外交的に譲歩しなかったため、中国は徐々に事態の収拾を図った。



【 シナリオ2 】 自衛隊の尖閣奪還計画が外に漏れ、「日本が自衛隊による尖閣占拠を画策している」と警戒した中国は自らも尖閣上陸計画の検討を始めた。日中間に緊張が走ったが、最終的に鎮静化する。この間、米国は自衛隊の計画が尖閣「奪還」であることを理解して日本の立場を支持する一方、日本と中国の双方に対して事態の収拾を強く働きかけた。



【 シナリオ3 】 海保巡視船が中国漁船を追跡中、誤って海警の巡視船と衝突し、中国人船員が海に投げ出される。現場が混乱する中、近傍にいた中国海軍のヘリコプターが自衛艦の近くを低空飛行した後、墜落。中国側はヘリが日本側に狙撃されたと確信する。日中はヘリ搭乗員の捜索救難を合同で行うことに合意できなかった。米国は「ヘリ墜落は日本側の故意によるものではなく事故である」と述べて中国を宥めようとする。中国は米国に対し、自衛隊が現場海域から撤退するよう日本政府に圧力をかけることを要求した。米国はこの要求を拒否。日中間で意思疎通がうまく図れなかったため、米国政府が日中両国政府と常時連絡を取った。



【 シナリオ4 】 上記シナリオ3の後、20人の武装した日本人右翼活動家が海保及び海警の警備をかいくぐって魚釣島に上陸。右翼は尖閣からネット中継を行い、その映像は中国国内にも流れた。日本政府は否定したが、中国側は日本政府が裏で糸をひいていると疑う。日本政府は警察を派遣して右翼を逮捕しようとする。しかし右翼の所持する武器は想定以上の重火器だったため、警察側は負傷者を出し、逮捕に至らず。苛立った中国政府は右翼排除に48時間の最後通牒を発するとともに、中国側が右翼を排除する場合に備えて準備を進めた。米国政府は日中双方に事態の鎮静化を訴える一方、最悪の事態に備えて米軍の態勢を強化した。最終的には、米中両国政府が日本政府の作成した右翼対処計画に同意した。





≪5. ランド研究所/Foreign Policy 誌≫

2016年1月、ランド研究所の専門家がリード役となり、Foreign Policy 誌の記者2名と尖閣をめぐる日中有事シナリオを検討した。[v]

概要は以下のとおりである。



【 1日目 】 日本人の右翼活動家が魚釣島に上陸した。これに対し、中国は海警と軍を派遣して活動家を逮捕する。



【 2日目 】 日本政府は右翼の上陸と無関係であると主張する一方、自衛隊を尖閣諸島周辺へ派遣した。しかし、中国側は尖閣諸島に上陸したまま、居座り続ける。日本政府は米国に対し、安保条約第5条の発動を要請した。米国政府は米軍が日本の本土防衛に当たることに同意する一方で、中国軍を攻撃することは拒否した。



【 3日目 】 尖閣周辺で牽制しあっていた自衛隊と中国軍の間で警告射撃の応酬となる。中国軍は対艦ミサイルを発射し、自衛艦2隻が沈没して約500人が死亡した。日本は米国に支援の拡大を要請し、米潜水艦が中国駆逐艦2隻を沈めた。



【 4日目 】 中国はカリフォルニア州の発電所とNASDAQ(新興企業向け株式市場)をサイバー攻撃した。また、中国はミサイル攻撃で自衛隊に深刻な損害を与えた。



【 5日目 】 この日までに中国軍は海自戦力の2割を破壊する。日本政府は米軍が中国軍をもっと攻撃するよう要請した。しかし、米国政府は「米中間の戦闘を拡大すれば、中国本土のミサイル基地だけでなく、米空母や嘉手納基地等も被害を受け、日米中で数千人の犠牲者が出る」と考えて日本政府の要請を拒否する。自衛隊は撤退を余儀なくされ、米軍はそれを支援した。中国は勝利宣言した。



このシミュレーションでも、米軍は当初、中国軍を攻撃しないつもりだった。その後、戦局の進展に従って対中攻撃に踏み切るが、ある程度以上のエスカレーションは拒否した。





米軍介入の不確実性

勘違いされやすいが、シミュレーションの主たる目的は「こうなる可能性が高い」という未来予想図を描くことではない。シミュレーションを行うに際し、企画する側はいくつかの条件や前提を設定する。それによって事態の経過や結果も大きく変わることが多い。それを検討して教訓を導き出すのだ。

上記にあげた5つのシミュレーションやシナリオ検討も、日中戦争の発端、経過、結果はそれぞれに異なっている。これらを分析することによって、わかることは何か?



≪日米安保と米軍介入≫

まず言えることは、尖閣有事において米軍が直接中国軍と戦うかどうかは〈不確か〉である、ということ。

日本と米国は安保条約を締結しており、オバマもトランプも「尖閣諸島は安保条約第5条の適用対象になる」旨を明言している。安保条約第5条は一般に〈米国による日本防衛義務を定めた〉と言われる条文だ。しかし、第5条自体を詳細に読めば、日本が武力攻撃を受けたときに米国が自動的に参戦して敵軍と直接戦うことを保証しているわけではない。本稿で見たシナリオの中にも、米軍が軍事介入したものもあれば、しないものもあった。軍事介入した場合でも、その程度・内容は様々だった。

ヨシハラが紹介した中国側のシナリオでは「中国軍が在日米軍基地を攻撃しなければ、米軍は軍事介入しない」という前提で話が進んだ。ただし、これは中国側の希望の裏返しでもある。在日米軍基地が攻撃されなくても米軍が中国軍と戦闘に及ぶ可能性はゼロではない、と私は思う。

CNASとランド研究所/Foreign Policy誌のシミュレーションでは、米軍は当初、中国軍を攻撃しない条件で自衛隊を支援し、戦局が進むにつれて中国軍を攻撃するに至った。だが、そうした前提でシミュレーションを行った結果、Foreign Policy誌は「尖閣諸島のように人も住めないような場所で起こった危機を(米国が)制御する最良の方法は、とにかく無視することかもしれない」という結論を示唆することになった。



≪米軍に見る「迷い」≫

本稿でとりあげたシミュレーションを検討して印象に残ったのは、米軍が介入する場合でも、米軍は極めて慎重に中国軍と戦っていたことである。米軍の最大の関心事は〈いかにエスカレーションを防ぎながら中国軍との戦いを速やかに終わらせられるか〉だったように見える。旧日本軍と戦った時、あるいはベトナム軍やイラク軍と戦った時とはまったく様相が異なる。オハンロンが喝破するとおり、共に核保有国である米中の戦争がエスカレートすれば、もたらされる災禍は取り返しがつかないほど大きい。そのことに思い至れば、米軍の慎重さも十二分に理解できる。

しかも、この危険極まる米中戦争の発端は、元をたどれば無人の岩礁である。米大統領が安保条約第5条の尖閣適用を明言したくらいで〈鬼の首でも取ったように〉喜ぶのは無邪気に過ぎる。米軍が自衛隊と共に戦うことになった場合でも、日本の利害は二の次、どこまで本気で中国軍を追い詰めようとするかは別問題と思っておいた方がよい。〈国と国との関係〉とはそういうものだ。



≪武力衝突の起こり方≫

尖閣をめぐって日中が衝突するきっかけは様々である。そして、「いかにして日中がぶつかるか」は米軍介入の有無やその内容にも多大な影響を与える。

「尖閣有事」に関して我々が抱く典型的なイメージは、中国軍が尖閣に侵攻してくるというものであろう。武装漁民への擬装等のバリエーションはあっても、〈中国側が先に手を出す〉というのが基本想定だ。本稿で見たシナリオでは、CNASとオハンロンがそれに当たる。

他には、海保と海警が尖閣周辺の海上で偶発的に衝突し、意思疏通の混乱からエスカレートして軍が出てくる、というケースもありえる。この場合、どちらが先に手を出したかはやや曖昧になる。笹川財団(米国)が取り上げたシナリオのひとつはこのケースを想定していた。

中国側が先に仕掛けたシナリオでは、いずれも米軍が介入している。中国が先に仕掛けたシナリオの方がそうでない場合に比べ、米軍の介入を何かと正当化しやすいことは確かであろう。ただし、米国が尖閣有事に軍事介入するか否かは、最終的には米国の国益判断によって決まる。そのことは間違えてはならない。

一方、ヨシハラが示した中国側のシナリオでは、武力衝突の原因を作ったのは日本(海保)であった。このことと中国軍が在日米軍基地を攻撃しなかったことを理由にして〈米軍は介入しない〉という筋書きを作ったのであろう。日中間の戦闘が尖閣周辺に限定され、中国軍が在日米軍基地への攻撃を控えれば、米軍が〈介入しなければならない理由〉は減る。ただし、米国は中国を抑止・牽制する必要がある。「米国との同盟は紙切れにすぎず、中国(やロシア)に対しては役に立たない」と世界中から思われるような事態も避けなければならない。

本稿でとりあげた尖閣有事のシナリオでは、日中戦争のきっかけとなった〈衝突の性格〉についても、意図的なものであったり、偶発的なものであったり、事故であったりと様々であった。中国の侵略的意図がはっきりしているほど、米国が軍事介入する可能性は高まると言ってよかろう。



≪実効支配強化シナリオと米国≫

3回にわたるAVP の連載で問題とするのは「日本政府が尖閣諸島に構築物を建造したり自衛隊に尖閣諸島で演習を行わせたりしようとするのに対し、中国が妨害を企てて日中間で武力衝突が起きる」というケースだ。本稿で見たシナリオの中に同種の想定は出てこない。だが、日本による尖閣実効支配強化が引き金となる場合、少なくとも衝突を招く〈遠因〉は、日本が作ることになる。日本政府が先に仕掛けたと米国の目に映れば、米軍介入の可能性は低下する。

2012年の夏頃、日本政府が尖閣諸島の3島を国有化する方針であることを知った米国政府は強い懸念を伝えてきたと言う。もしも日本政府が自民党国防議連の提言に沿って島嶼部へ手を加えようとすれば、米国政府の懸念は国有化の時以上に大きなものとなろう。野田内閣による国有化は、石原都知事(当時)が尖閣を購入して島嶼部に船溜まり等を建築するのを防ぐ意味合いが大きかった。今度は日本政府自らがそれをやろうと言うことになるのだ。米国政府が「日本政府が露骨な実効支配強化を強行した結果、日中が戦うことになっても日米安保条約第5条を発動しない」という方針を日本政府に伝え、実効支配強化策を実行しないよう圧力をかけてくることがあっても、驚きはない。





実効支配強化の収支~国益とは何か?

本号は「日本が魚釣島へ船溜まりを作るなど尖閣諸島の実効支配を強化しようとした結果、日中が武力衝突したらどうなるのか?」を問うことから始まった。この辺で答を出そう。本稿で参照したシミュレーションやシナリオ検討をヒントにして考えた時、日本は果たして勝てるのか?



≪米軍が動かなければ完全アウト≫

日本が尖閣諸島の実効支配を具体的に強化しようとして日中が武力衝突に至ったとき、米国が意味のある形で中国と戦う可能性は低いと思っておくべきだ。自衛隊が単独で中国軍と戦うことになれば、日本の不利は動かしがたい。

十年くらい前までなら、まだ楽観していることもできた。自衛隊は中国軍に量で負けても、質ではリードしていた。現在は、宇宙・サイバーを含め、自衛隊が中国軍に対して質量ともに劣勢にある分野が目立つ。仮に尖閣周辺の局地戦で自衛隊が優勢を保つことができたとしても、中国本土から中距離ミサイルで自衛隊基地を攻撃されたら〈お手上げ〉だ。

 本稿で見たシミュレーションもそうだが、米軍が机上演習を行っても中国軍に勝てないか大苦戦する結果になると言われている。自衛隊単独で中国軍と戦えば、もっと厳しい結果になるのは自明の理だ。



≪米軍が動いてもアウト≫

米軍が軍事介入すればどうか? その場合でも、日米が中国に勝てるという確信は持てない。米中の本音は「米中戦争は避けたい」というものだ。米軍が介入してもどこまで本気で戦うか定かでない。仮に日米が有利に戦いを進められたとしても、中国共産党指導部が負けたままで矛を収めるとは考えにくい。中国には約2千発と言われる中距離精密誘導ミサイルという切り札もある。エスカレーションの危険性は無視できない。

米軍が介入しようがすまいが、そして勝とうが負けようが、日本が被ると思われる人的・物的・経済的な損害は甚大なものになる。〈無人島に建造物を構築する〉ためにボロボロとなり、挙げ句の果てに建造物も造れなかった、という事態を迎えるわけだ。愚かを通り越し、狂っている。



≪もう一つのシナリオ≫

本稿ではこれまで、「日本が尖閣に舩溜まりや灯台等を建てようとした時、中国が日本側による機材持ち込み等を妨害して武力衝突を招く」というシナリオを前提に議論を進めた。しかし、中国が取り得る選択肢はそれだけではない。海上で妨害するのではなく、尖閣の構築物をミサイルで破壊することも有効なオプションだ。

その結果、日本側では人命が失われるかもしれない。だが、日本がこれに対して軍事的な報復を行うことはまず不可能。敵基地能力を持ったとしても、中国相手にミサイル基地を報復攻撃すれば、何倍にもなって返ってくる。

同盟国である米国に期待はできるか? 中国非難に同調するくらいは付き合ってくれるだろう。しかし、中国の攻撃が単発である限り、安保条約第5条を発動して米軍が中国攻撃に乗り出すとは考えられない。

せいぜい経済制裁の応酬となり、日本の方が大きなダメージを受けるのが関の山だ。中国が「もともと現状を変更しようとしたのは日本である」と主張すれば、対中経済制裁が国際的な広がりを見せる可能性は低い。

こう考えると、中国が実際にミサイル攻撃をしなくても、その脅しをかけるだけで日本政府は腰砕けになるかもしれない。現実はかくも厳しい。

 



私は、日本がこうしたシミュレーション結果を見て怖気づき、中国が尖閣諸島に侵攻しても無抵抗でいるべきだ、と主張するつもりはない。万が一にも中国が理不尽に尖閣諸島へ侵攻してくるようなことがあれば、自衛隊単独で尖閣を爆撃し、撃退すべきだと考えている。しかし、口先ばかり勇ましく、自ら危機を招くようなことは絶対にすべきではない。尖閣諸島の実効支配強化は現実的な選択肢とはならない。

では、我々はこれまでの姿勢を続けていればよいのだろうか? 
 日本政府は「日本の領土、領海、領空は断固として守り抜くという決意の下、冷静かつ毅然とした対応を行うとともに、中国に対して厳重に抗議を行っています」と能天気に述べている。だが、これは〈無為〉の言い換えだ。このままでは、中国が徐々に実効支配を強化し、最後は日本の主権とぶつかることが避けられない。尖閣問題はもっと根本的な解決を目指すべき時に来ている。

次号ではその解決策について論じる。私が批判を覚悟のうえで提案するのは、尖閣諸島の日中共同管理だ。







[i] https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/09/post-94507.php

[ii] https://www.mod.go.jp/msdf/navcol/SSG/topics-column/images/t-082/t-082_02.pdf

[iii] https://www.amazon.co.jp/dp/B07G2LSSCJ/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1

[iv] https://spfusa.org/wp-content/uploads/2017/05/Senkaku-Islands-Tabletop-Exercise-Report.pdf

[v] https://foreignpolicy.com/2016/01/15/how-fp-stumbled-into-a-war-with-china-and-lost/




【筆者プロフィール】
須川清司(すがわ きよし)
1983年、早稲田大学政治経済学部を卒業し、住友銀行(現在の三井住友銀行)勤務。資金為替部、シカゴ支店、シンガポール支店等を経て1995年に同行退職。1996年、シカゴ大学大学院国際関係学科修士課程を修了後、民主党勤務。政策調査会及び役員室部長代理。1999年9月から翌年6月まで米ブルッキングス研究所客員研究員。2009年10月から2012年12月まで内閣官房専門調査員を兼務。2013年以降は民主党政策調査会部長。2020年3月、国民民主党を退職し、同年4月より現職。著書に『米朝開戦』(2007年、講談社)『外交力を鍛える』(2008年、講談社)。

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