東アジア共同体研究所

民主主義サミットが暗示した民主主義の黄昏 【Alternative Viewpoint 第33号】

2021年12月17日

 

はじめに

去る12月9日と10日ジョー・バイデン米国大統領の主催する民主主義サミットがオンラインで開催された。それから丁度1週間が経とうとする今、このサミットのことを思い出す人はあまりいないだろう。それほどに影の薄い〈イベント〉だった。

私は、バイデン政権が今日の米国の民主主義に対して大きな危機感を抱いていることには大いなる共感を寄せてきた。米国では、インターネット・ソーシャルメディア化に伴ってフェイクニュースが歯止めなく横行するようになり、党派的対立が修復不能なまでに深刻化している。程度の差こそあれ、日本でも民主主義の危機は確実に進行している。バイデンの心配は他人事ではない。だが一方で、バイデン政権が民主主義サミットという形でこれを対中・対露政策の道具にしたことは、米中対立に油を注いだだけ。中国との競争上、サミットの開催によって米国が有利になったわけではない。その意味では愚策だった。それどころか、アフガニスタン撤退の際に見せた不手際に続き、米国大統領が鳴り物入りで主催した民主主義サミットが〈がらんどう〉だったことで、世界はバイデン政権が国際秩序をガバナンスする能力を欠いているのではないかという疑念を募らせたと思う。

AVP第33号では、民主主義サミットの「影の薄さ」の理由を分析し、さらに日本の民主主義や「民主主義対権威主義」の抗争の行方についても考察する。[i]

 

民主主義サミットはどんなものだったか?

まずは形から入ろう。オンランで行われたという形式は措いておくとしても、このサミットは我々が通常イメージする「サミット(首脳会議)」からかけ離れたものであった。

≪政府首脳は「お飾り」?≫

岸田総理をはじめ、各国首脳が一堂に集った場面は会議冒頭あたりで行われた首脳プレナリー・セッションのみ。全体の時間枠が1時間で岸田さんが5分程度発言している(=公開)ことから想像すると、限りなく〈言いっ放し〉に近かったであろう。サミットの本体は、主に小国の首脳、米国の州知事、米政府や国際機関関係者、人権団体、マイクロソフトなどの情報産業などがスピーチをしたり、パネル・ディスカッションを行ったりというもの。[ii] G7やG20 と言うよりは、ダボス会議のようなものに「サミット」の名前を冠したものと思った方がよさそうだ。

≪成果文書なしのビデオ・ショー≫

通常のサミットには付き物の共同成果文書も見送られた。バイデン大統領が開会の辞と閉会の辞を述べたが、そこで何かの合意事項が打ち出されたわけでもない。そもそも、今回のサミットでは上述のとおり、何らかの合意に達するための共同作業が官僚たちの間で行われることもなかった

あまりに何もなくては格好がつかないと思ったのだろう。主催者である米国政府は参加国に対し、首脳による数分のビデオ・メッセージ自分たちが民主主義のためにどんな取り組みをするかを書いた決意文書を寄せるよう要請した。[iii] ビデオの方はほとんどの国が出したようだ。しかし、決意文書の方はどの程度の国が応じたのかは、国務省のホームページを見てもよくわからない。

各自で作成するビデオ・メッセージが通り一遍の自己満足に終わることは誰にでも予想がつく。実際にそうなった。麻薬捜査のために5千人以上を殺害したほか、最高裁長官を解任したり、政権に批判的なネットメディア代表を逮捕したりしてきたフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領。ビデオでは「フィリピンはアジアで最古の民主主義国家だ」と胸を張り、「報道の自由、表現の自由は完全に享受されている」と述べた。南米のトランプと言われるブラジルのジャイール・ボルソナロ大統領やヒンドゥー至上主義に基づく宗教的少数派への抑圧が問題視されているインドのナレンドラ・モディ首相も自国の民主主義を自画自賛した。米国務省のホームページはこうしたメッセージを今もダダ流ししている。ドゥテルテたちにしてみれば、米国政府が自分流の「民主主義」にお墨付きを与えたと国内でアピールできよう。バイデンたちはそんなことを意図したわけではなかったはず。下手な脚本の三文芝居を見せられているような気がするのは私だけだろうか?

 

「初志」は尊かったが・・・

日本では民主主義サミットについて、米国が「中国やロシアなど権威主義陣営に対抗して民主主義陣営を糾合する」という外交戦略的な側面を強調する報道が多かった。それは一面では正しい。しかし、それだけに着目して民主主義サミットに関する米中の罵り合いを野次馬根性で見ていると、日本は時代から取り残されてしまいかねない。

≪アメリカの民主主義に対する危機感≫

民主主義サミットの大元をたどれば、バイデン民主党が米国の民主主義に対して持つ〈強い危機感〉にたどり着くAVP第15号で示したとおり、ソーシャル・メディアの興隆に伴って米国社会ではフェイクニュースが氾濫し、政治的な「部族化」が進んでいる。[iv] 皮肉なことに、米国流の民主主義の下では嘘を拡散することも「自由」だと主張する人が大勢いるドナルド・トランプが大統領になったのも、今年1月に米議会襲撃事件が起きたのも、フェイクニュースによって民主主義が空洞化した結果と言える。バラク・オバマ前大統領は、ソーシャル・メディア等によってフェイクニュースが流され、道徳と正義が失われることを「米国の民主主義に対する最大の脅威」と呼び、トランプの退任によって民主主義の危機が終わることはないと述べた。この認識はまったく正しい。

民主主義に対する脅威は、米国社会の内側のみならず、外側からも押し寄せてきた。2016年の大統領選挙では大接戦の末にトランプがヒラリー・クリントンを下して勝利した。この時、ロシアはネットを通じた工作にメディア戦術を絡めて民主党候補だったヒラリーを大々的に貶めた両候補の得票差を考えると、ロシアの介入なかりせば、トランプ大統領は生まれなかった可能性が高い。ロシアの行為は究極の主権侵害であり、米国の民主主義に対する破壊活動であった。[v]

しかし、トランプやその支持者たちはこうした状態を〈危機〉と捉えようとはしていない。それは当然だろう。彼らにとって、民主主義の混乱は自分たちが権力につくための絶好のチャンスを提供するものだ。一方で、2020年大統領選の民主党候補となったバイデンは米国の民主主義の現状と将来を憂い、「民主主義の再建」とも呼ぶべきプロジェクトに力を入れることを公約した。[vi]

例えば、米国では州によって、有権者登録の際に運転免許証の提示を義務化するなど、黒人やヒスパニックの投票権を事実上制限する動きが見られる。(黒人やヒスパニックの間では運転免許証の保有率が相対的に低い。)1965年に制定された投票権法についても、2013年に最高裁判所は南部の一部州で投票上の人種差別を禁止した条項を違憲とする判決を下した。これに対してバイデンは、投票権法の復活を公約している。大統領就任後早期に民主主義再建のために実行すると述べた野心的な取り組みは他にも数多あった。さらに、「我が国の民主主義の基礎を強化し、他国においても同様の取り組みが行われるよう鼓舞する」ための取り組みを実行した後に、世界的な民主主義サミットを主宰するとバイデンは宣言したのである。

もちろん、バイデンが民主主義の再建を誓うのには、「トランプ共和党に勝つため」という権力闘争の側面が多分にある。だが、そのことを認めてもなお、民主主義の混乱を画策するトランプ派よりは遥かに良い。まだあまり深刻に意識されていないだけで、〈民主主義の危機〉は日本でも静かに進行しつつあると思うからだ。私はこの1年間、米国内の民主主義再建プロジェクトについて、何とか成功してほしいと祈るような気持ちでバイデン政権の取り組みを見守ってきた。だが、期待は失望に変わりつつある。私が民主主義サミットをしらけたシラケた気持ちで見ていた理由の大半は、そこにあった。

≪バイデン政権1年目の通信簿≫

AVP第31号で指摘したように、バイデン政権になってからも特定党派に有利となる恣意的な選挙区割り(ゲリマンダリング)の横行には歯止めがかからない。ゲリマンダリングは共和党が強い州で目立つが、民主党が強い州でも行われている。州レベルで行われている有権者登録の制限強化を連邦レベルの立法によって事実上無効化するための投票権法案も成立の見通しは立っていない。バイデン政権と民主党執行部は経済関係の法案を成立させるために共和党の顔色を窺っている。それに対し、民主党内のリベラル(プログレッシヴ)からは失望と怒りの声があがっている。しかし、支持率の低下に喘ぐバイデン民主党は、来年の中間選挙に直結する経済問題を最優先するというスタンスを変えられそうにない。

トランプ大統領が導入した「メキシコ待機」プログラム(米国への亡命希望者が移民申請を行う間、メキシコ国境内に待機させる政策。治安が悪い環境で移民が誘拐やレイプなどの虐待にあうことがリベラル派によって問題視されてきた)を今年6月に終了したことは、民主主義や人権に関わるバイデンの公約の中でも実現に至った数少ない実績であった。だが、8月に連邦最高裁判所がプログラムの再開を命じたため、バイデン政権は今月から復活させた。トランプの任命によって最高裁判事の過半数を保守派が占めるようになったことの影響があからさまに出たかたちだ。

≪変質~サミットを開くことに意義あり≫

このように〈弱り目に祟り目〉の状態に陥ったバイデン政権にとって、民主主義サミットの開催は絶対に実行しなければならない公約だった。バイデンは選挙戦中も大統領就任後も、「大統領就任の1年目に」民主主義サミットを開催すると明言していた。会議を開くだけなら、議会対策や最高裁との関係を抜きにして実行可能だ。米国民の世論を考えれば、中国やロシアと言った権威主義陣営への対決姿勢を示すことは、選挙対策上も悪い話ではなかった

「民主主義サミットによって中国叩きの共同戦線を作るのだ」と息巻いた人は米国にも日本にも多少はいたことであろう。しかし、そんな思惑通りに事が運ぶことはなかった。なぜか? 答は、米国が民主主義陣営の牽引役としての実力を失っていることにある。

日本では今も米国を「民主主義のメッカ」として崇める向きが大半であろう。ところが、今日の米国を「民主主義の優等生」と呼ぶことには、国際的には疑問符がつくのが実情だ。自由と民主主義を監視するNGOであるフリーダム・ハウスが発表しているGlobal Freedom Scoreの総合点(政治的権利と市民的自由の合計点)を見てみよう。上位7カ国はスウェーデン、ノルウェー、フィンランド(=100)、ニュージーランド(=99)、カナダ、ウルグアイ、オランダ(=98)。以下、飛ばしながら見ていくと、日本=96、台湾=94、ドイツ=94、英国=93、フランス=90と続き、米国のスコアはパナマ、韓国、ルーマニアと並んで83である。この数字はアルゼンチンやモンゴル(=84)よりも低い。[vii]

バイデンがトランプ主義者に代表される反動的勢力と必死で戦っていればまだしもだが、〈この程度の民主主義国でしかない〉米国が盟主気取りでサミットを呼びかけても、勢いは生まれない。多くの国々は「バイデンと民主党は次の選挙で生き残るために民主主義サミットの開催を〈自作自演のお手柄〉として利用したいだけ」と見透かしていた。台湾などを別にすれば、サミットに招待されて喜んでいた国(地域)はあまりなかった。サミットと言えば不思議なほど盛り上がる日本政府も今回は概して冷めていた。米政権内にさえ、「やめればよかったものを」という声があると言うのだから、それも無理はない。[viii]

バイデンは選挙公約で「米国が実例を示すことによるパワー(THE POWER OF AMERICA’S EXAMPLE)で民主主義世界を率いる」と大見得を切っていた。しかし、肝心の実例が示せない以上、バイデンの言葉も虚しく響くのみだ。

 

日本の情けなさ

民主主義サミットにおける日本のパフォーマンスはどうだったのか? 「こんなサミットに出ても意味はない」と断ったのならともかく、お付き合いであっても参加した以上は、日本としてキラリと光るメッセージを世界に伝えられれば、それに越したことはなかった。しかし、岸田文雄総理の口から出た言葉は、「お寒い」の一語に尽きた。正直なところ、私は「民主主義サミットが国際的な注目を浴びなくて本当によかった」と胸をなでおろしている。

≪岸田総理のメッセージ≫

初日に行われた首脳セッション。岸田総理はその5分余りのスピーチで何を語ったのか?[ix] 基本的なメッセージは「強靱(きょうじん)な民主主義、基本的人権の尊重を多くの国・地域に根付かせていくために国際社会と共に歩む」というものだった。官僚の作文そのものだが、そこは大目に見よう。岸田のスピーチの中で具体的だったのは、人権問題に携わる国際機関に対して約1400万ドル(約16億円)を拠出することを表明した部分のみ。世界の受け止めは「あぁ、日本はまた少しばかりのお金を出してくれるんですね。いつもご苦労様」という程度のものだったと思われる。恥ずかしい。

「健全な民主主義の中核である中間層を守る」という文脈にかこつけて、岸田は内閣の金看板である「新しい資本主義」についてもちゃっかりアピールした。しかし、「新しい資本主義」という大仰なキャッチフレーズを打ち上げたところで、その中身は「成長も分配も実現する」という陳腐なものだ。「人は良さそうだが退屈そうなこの指導者に過去25年間GDPがほとんど増えていない日本経済を成長させることは無理だな」と見切られたに違いない。

≪日本の民主主義の暗部≫

私が何よりも失望(絶望)したのは、岸田が日本の民主主義について何一つ語らなかったことである。日本でもインターネットやソーシャル・メディアの浸透に伴ってフェイクニュースが拡散するようになり、政治にも影響を与えているはずだ。多くの場合、この事態は資金力等で圧倒的な力を持つ自民党に有利な構造を作り出している可能性が高い。[x] それだけではない。モリカケ問題の関する情報開示の不透明さ政府与党によるメディアへの有名無形の圧力日本学術会議の任命拒否問題名古屋出入国管理局におけるスリランカ人女性の死亡など、日本の民主主義が自由、法の支配、人権の面で十分に多くの課題を抱えていることは誰の目にも明らかである。

日本の民主主義が抱える問題点は、政府与党が持つ〈傷〉である。それを岸田や官僚たちが世界の首脳たちに向かって自ら懺悔するとは考えにくい。だが、岸田がこうした日本の民主主義の恥部にどんなに婉曲な形でもいいから触れていれば、心ある世界の人々は「日本の指導者は現代社会における民主主義の危機の本質をわかっている」と思ったはず。しかし、岸田が実際に発した言葉はさながら、「日本の民主主義には何の問題もありません。民主主義の優等生である日本が世界の民主主義後進国を支援してあげます」と言っているように聞こえた。これでは、権威主義国の指導者が自国のあり方を正当化し、自分たちは世界のために貢献していると言い張るのと同じ穴のムジナではないか。

岸田と同じく民主主義サミットに参加した韓国の文在寅大統領は、ずっと〈まとも〉だった。文は「人類は民主主義とともに、歴史上経験したことのない繁栄を遂げたが、ポピュリズムと過激主義、不平等と二極化、フェイクニュース、嫌悪、憎悪などに直面している」と述べ、「フェイクニュースから民主主義を守る自浄能力を育てなければならない」と主張した。[xi] また、文は「請託防止法、利害衝突防止法、公益申告者保護制度、マネーロンダリング防止法など韓国の反腐敗政策の成果を国際社会と共有して、開発途上国と韓国の電子政府システムをシェアしたい」とも述べた。行政のデジタル化がまだ〈お経〉の段階にとどまる日本政府では、言いたくても言えないことであった。私は別に韓国びいきではないが、民主主義サミットで岸田総理は文大統領に完敗したと思う。

 

「民主主義 対 権威主義」の競争はどうなる?

最後に、民主主義と権威主義の力関係が今後どうなるのかについて、鍵を握りそうなポイントについて私の見解を少しばかり述べておこう。

≪思想としての魅力≫ 

権威主義を「思想」と呼ぶのには抵抗がある。民主主義も国や時代によって差異が大きいことはわかっているつもりだ。そのうえで言えば、やはり「米国の民主主義がこれからどうなるか」ということは大きなポイントとなる。トランプは事実や科学から遊離した〈オルタナファクト民主主義〉が米国内で揺るぎなき勢力基盤を持つに至ったことを世界に示した。バイデンはオルタナファクト民主主義の波を押しとどめようとしているが、失敗しそうな予感がしてならない。そうなれば、民主主義の下で人々はフェイクニュースを通じてそれと意識しないままにマインド・コントロールされ有権者登録の規制強化やゲリマンダリングによって選挙を通じた民意の組み上げも十分には機能しなくなるといった事態が顕在化しかねない。こんな状態になっても「民主主義は最悪の政治形態といわれてきた。他に試みられたあらゆる形態を除けば」というチャーチルの言は名言とされ続ける保証はない。

一方で、人間の本性が抑圧よりも自由を欲すると信じる限りは、権威主義に魅力などない。例えば、「生活が良くなれば、政治的自由は二の次でよい」という考え方が日本で多数派になるとは考えにくい。そうだとすれば、オルタナファクト民主主義と権威主義の戦いは〈泥仕合〉となる可能性が高い。

≪経済発展と統治力≫ 

周知のとおり、米ソ冷戦は民主主義の勝利、共産主義の勝利で終わった。その最大の要因は、1970年代以降にソ連をはじめとする共産圏の経済が疲弊・破綻して人々の不満が募り、共産主義の政治システムで統治し続けることが不可能になったことであろう。対する米国は、財政赤字・貿易赤字の二つの赤字に苦しんだものの、比較的高い経済成長を続けた。反ベトナム戦争や公民権運動などの社会的動揺はあったものの、民主主義の政治システムはそれを吸収することができた。

米ソ冷戦が終わった後、民主主義は国際的な陣取り合戦においても優位に立ったように見えた。「民主主義が保証する自由な発想が経済の革新を可能にしたのであり、資本主義が計画経済に勝利したのは必然であった」と信じられたためだ。多くの国で「良い生活を送りたければ、民主主義がベスト」と考えられたのである。

ところが、発展途上国の中には「政治・統治面では欧米流の民主主義を採用できないが、経済面で資本主義の要素を取り入れることによって経済成長を追求する」という権威主義+修正資本主義(国家資本主義)の道を進む国が出てきた。その道を進みながら既存の民主主義国よりも高い経済成長を長期間にわたって続けたのが中国であることは言うまでもない。今回の民主主義サミットに招かれたインドやブラジルも、経済的には資本主義だが政治的には民主主義と権威主義の中間的な側面を多分に持っている。こうなってくると、「より良い生活を送りたいが、米国が言うような民主主義でなくてもよい」と考える途上国が増えても不思議ではない

しかも、最近の米国を見ていると、民主主義の下で国内の分断が進み、昨年行われた大統領選の前後には「米国で内乱が起きるかもしれない」と真顔で心配する人さえいたイラクのような国では、フセインが追放されて民主主義国家となった後、経済も治安も混乱を極めた。その意味でも、途上国のエリートが民主主義をかつてのように理想的なモデルと考えるかどうかは予断を許さない

一方で、中国経済もここから先は今までのような経済成長を続けることはむずかしいだろう。人口は減少しはじめ、中所得の罠も本格化してくることが避けられないからだ。米国等が仕掛ける先端技術における中国封じ込めが奏功すれば、中国経済は中長期的に深刻な影響を被ることが避けられない。(ただし、その対中封じ込めが成功する保証はない。)経済成長が極端に鈍化したり、台湾問題の取り扱いを間違ったりすれば、中国共産党の一党独裁体制も動揺せざるを得ない。

民主主義と権威主義の戦いは、イデオロギーとして人間の本性に訴えかける力の優劣だけで決着がつくことはなさそうだ。むしろ、米中それぞれの経済や政治システムがどうなるかという相対関係により大きく左右されるような気がしてならない。

 

おわりに

今回の民主主義サミットはつまらないものだった。それでも、我々が「民主主義の現状」を考え、バイデン政権の統治能力を把握するうえでは、貴重な機会を与えてくれた。

国務省のホームページによれば、今回のサミットは第一段階であり、米国政府はおよそ1年後にサミットの第二弾を(コロナの状況にもよるが)対面で開催したいという意向のようだ。その頃には米中間選挙も終わっているはず。バイデン民主党の立場は強化されているのか、弱まっているのか? 米国の民主主義の劣化に多少なりとも歯止めはかかっているのだろうか? 米中・米露の対立はどうなっているのか? 来年も不透明な時代が続きそうである。AVPでは引き続き、世界と民主主義の動向をフォローして行きたい。

 

 

[i] 今回の民主主義サミットでは、招待された国の民主化の程度がまちまちであったことから、米国(バイデン政権)の都合で招待国が決められたという批判が付いて回った。例えば、Economist誌は「どの国が招かれたかは民主的価値観よりもアメリカ政治を反映していた」と言い、「ジョー・バイデンの民主主義サミットはそれほど民主的ではない」と断じた。Joe Biden’s Summit for Democracy is not all that democratic | The Economist 私もその通りだと思う。だが、本稿ではその点には敢えて触れず、他の視点からサミットを振り返ることにした。

[ii] スケジュールはこちら。Schedule – The Summit for Democracy – United States Department of State

[iii] 各国のビデオ・メッセージはこちら。Official Interventions – The Summit for Democracy – United States Department of State 岸田総理のビデオ・メッセージはこちら。米国主催の民主主義のためのサミットにおける岸田総理大臣ビデオメッセージ Video Message by Prime Minister KISHIDA at Summit for Democracy – YouTube 日本政府の決意文書はこちら。100270827.pdf (mofa.go.jp)

[iv] https://www.eaci.or.jp/archives/avp/231

[v] 他国の政治体制に対する介入は2016年大統領選におけるロシアが初めての例ではない。冷戦下の米国もCIAの工作等を通じて他国の政治体制に何度も介入した。だがここでは、そのことはとりあえず措いておく。

[vi] Foreign Policy and American Leadership Plan | Joe Biden

[vii] Countries and Territories | Freedom House

[viii] 民主サミットに冷めた声…五輪ボイコットは|日テレNEWS24

[ix] 首脳セッション以外でも、岸田は短いビデオ・メッセージを寄せている。それは「皆さま、〈私の政権〉では民主主義や人権をはじめとする普遍的価値観を重視しています」で始まっている。安倍政権や菅政権に対する当てつけのつもりならご立派だが、岸田にそんな度胸はあるまい。そうだとすれば、「日本のほかの政党は民主主義や人権を軽視している」と日本国の総理が言っているようにも聞こえる。こういう細かい言葉遣いに配慮できていないということは、官邸も外務省もこのサミットに緊張感を持って臨まなかったことの証左であろう。

[x] 米国ではニューヨーク・タイムズなど民主党寄りのメディアがトランプやスティーブ・バノンらによるフェイクニュース拡散(のごく一部)を暴いてきたのに対し、日本のマスコミはこの問題に深入りしようとして来なかった。したがって、私の疑念も印象論と言われれば、それまでのところがある。先日、立憲民主党の小西洋之・杉尾秀哉参議院議員が両議員に関わるフェイクニュースを拡散させた匿名ツィッターアカウント「Dappi」のインターネット回線契約会社を名誉棄損で訴えた裁判の公判が始まった。マスコミがこの件をどれだけ深掘りするのか、司法がどこまで踏み込んだ判断を下すか、注視していきたい。

[xi] 文大統領 フェイクニュース対策強調=民主主義サミットで | 聯合ニュース (yna.co.kr)
文大統領「フェイクニュースから民主主義を守る方案について真剣な議論が必要な時」 | Joongang Ilbo | 中央日報 (joins.com)

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