東アジア共同体研究所

米中関係注意報~中国とのイデオロギー対立を前面に出して「有志連合」を呼びかける米政権 

Alternative Viewpoint 第7号

2020年7月30日

はじめに

7月23日、マイク・ポンペイオ米国務長官が「共産主義国家中国と自由世界の未来」と題し、中国大批判の演説を行った。[i] 米国政府あるいは米国の政治家が中国を悪しざまに言うのは珍しいことではない。今年11月には大統領選挙と連邦・州等の議会選挙がある。またぞろ、有権者受けのする〈中国叩き〉に精を出しているんだな、と冷ややかに見る向きもあろう。しかし、今回ばかりは度を超えている。米外交の責任者がこれだけ露骨に中国との対決を宣言すれば、「作用・反作用」によって米中双方が〈対決の袋小路〉を突き進む可能性は極めて高い。

 Alternative Viewpoint(AVP)の第3号(5月27日)[ii] と第4号(5月30日)[iii] では米中対立をテーマにとりあげ、それが「もう後戻りできない」ところまで進んだ、と論じた。だが、米中対立が激化するスピードは想像を超えていた。2か月前はまだ、「中国もさすがに戦狼外交の愚かさに気づいて多少は軌道修正するだろう」と期待していた。「いかにトランプ政権といえども、国内でコロナが蔓延する中にあって対中戦線を拡大することには限度がある」とも見くびっていた。私の見通しは甘かった。

 ポンペイオ演説については、既にメディア等でかなりセンセーショナルに報じられている。だが、米中対立の激化をはやしている割には、米中対立が二国間から日本を含めた世界の国々を巻き込むものになりつつある、という意識がまだ弱い。実のところ、ポンペイオの演説は、中国に対する以上に、我々に向けられたものであった。

米中対立はもはや他人事ではなくなる。それを伝えるための注意報としてAVP第7号をお届けしよう。

用意周到な意思表明

7月23日のポンペイオ演説は単発のものではない。① 6月26日にロバート・オブライエン国家安全保障担当補佐官が「中国共産党のイデオロギーとグローバルな野心」[iv] という題で、② 7月7日にクリストファー・レイFBI長官が「中国政府と中国共産党が米国の経済及び国家安全保障に及ぼす脅威」[v] という題で、③ 7月16日にウィリアム・バー司法長官が「中国共産党のグローバルな野心に対する米国の対応」[vi] というテーマでそれぞれ話したのを受け、トリをつとめたのが国務長官のポンペイオであった。オブライエンがイデオロギー、レイがスパイ活動、バーが経済面でそれぞれ中国を痛烈に批判し、ポンペイオが米国民と世界にむけて中国の脅威が意味するところを総括した。これは米国政府が組織的かつ用意周到に準備した行動であったということを意味している。

ポンペイオ演説の二日前にあたる7月21日、マーク・エスパー国防長官は年内に自身初めてとなる訪中を実現したいと述べた。おそらく、米国政府内が対中全面対決路線で一枚岩ということではあるまい。しかし、趨勢として関与派(あるいはバランス配慮派)が後退し、対中強硬派が勢いを増していることは疑いがない

《ナヴァロの影》

今年11月に行われる大統領選でトランプの敗色が濃くなった今、政権内の「米中対決=宿命」論者たちは、自分たちが政権にある間に今後の対中戦略のトーンを決定づけておこうと考えているのかもしれない。私には、ポンペイオたちの対中認識と対中戦略の向こう側にピーター・ナヴァロ大統領補佐官の顔がちらついて見える。ポンペイオたちの語る内容がナヴァロの著した『伏した虎』――邦訳は『米中もし戦わば』――と重なっているからだ。[vii] その著作でナヴァロが展開しているのは、目先の経済的利益が損なわれても軍事・経済・技術力等の分野で中国との総力戦を戦うべし、という運命的な決戦論である。

今のところ、ドナルド・トランプ大統領自身はこの問題で旗幟を鮮明にしていない。しかし、この1ヶ月の間に四人の閣僚がセットとなって新しい対中戦略を発表したのだ。トランプの了解なしに行われたとは考えられない

消えた〈関与〉

 これまでトランプ政権高官による対中批判演説と言えば、マイク・ペンス副大統領による2つが知られていた。

最初のものは2017年10月4日の「政権の対中政策」という演説。[viii] ペンスは、これまで中国がいかに米国の善意を裏切ってきたか、そして今日の中国が米国にとっていかに脅威となっているかを〈ぶっきらぼうに〉言い放った。そのうえで「トランプ大統領が屈することはない」と述べて中国への対抗姿勢を宣言した。ペンス演説は「米中新冷戦の幕開け」と言われたものだ。

しかし、この時の演説を読み直してみると、ペンスは「競争は必ずしも敵対を意味しない」「米中の繁栄と安全保障が共に成長するような建設的な関係を中国政府との間で持ちたい」と述べている。対決一辺倒ではないというメッセージも送っていたわけだ。

昨年10月24日にペンスが行った演説も、その大部分は中国の監視国家ぶりや香港問題などへの批判に費やされた。[ix] しかし、後半では「トランプ大統領は習主席との間で強い個人的な関係を築いてきた。我々はその基盤に立って米中両国民の向上のために両国関係を強化する方法を模索し続けるだろう」といった言葉を並べ、バランスを取っている。

過去の米国政府の関与(engagement)政策を失敗だとこき下ろしてきたわりには、「米国は中国に関与し、中国がより広い世界と関与することを求める。ただし、関与は公平、相互尊重、国際的な通商ルールと両立するものでなければならない」と関与政策の余地をはっきり残していた。米中は今年1月に第1段階の貿易合意に達している。ペンスもその辺に配慮したのかもしれない。

《中国を変える》

私が一読した印象では、今回の4人の演説は〈反中演説〉とみなされてきたペンスの2つの演説と比べても遥かにきびしいものだ。まず、ペンスの時には首の皮一枚残っていた〈関与〉が消えた

ポンペイオの言を借りれば、歴代の米国政府は「中国への関与政策を進めれば、(中国による)礼節と協調が約束された輝かしい未来が実現する」と想像していた。だが現実には、中国は「国内的には一層権威主義的になり、(対外的には)どこでもかしこでも自由への敵意をますますむき出しにする」ようになったと述べ、トランプ政権以前の対中関与政策を切って捨てた。ここまではペンス演説と基本的に同じだ。ところがポンペイオたちの演説には、従来使われていた意味での「関与」という言葉がないばかりか、中国への外交的配慮を示すフレーズも見当たらない。逆に、ペンスが習近平とトランプの個人的関係に触れたのに対して、ポンペイオは習を「破産した全体主義イデオロギーの真の信奉者」と呼んだ。

それだけではない。ポンペイオは米国の対中政策の鍵を握る言葉は「変化を誘発する(induce change)」ことであり、それを実現する唯一の方法は、中国の指導者の「言葉」ではなく「行動」に基づいて対応することだと言ってのけた。中国と対話(talking)は続けるとしたものの、レーガン大統領がソ連に「信用するが検証する」という態度で対応したことを引き合いに出したうえで、今日の中国に対しては「信用せずに検証する」という態度で臨むと断言。しかも、ポンペイオは中国の反体制派、米国企業、各国政府に対し、中国(共産党)の変化を誘発する行動に参加するよう呼びかけた。今後米国が「関与」する対象も、中国政府ではなく、中国人民だと言う。

ここまで言われて中国が敵意を感じないわけはない。いや、中国の指導部に喧嘩を売るための演説だったと考えるべきだろう。

イデオロギー対立の強調

今日の米中対立は「米中新冷戦」と呼ばれることが多い。だが、その見方には異論もある。最たるものは、今日の米中間には「食うか食われるか」のイデオロギー対立が存在しない、というものだ。冷戦期のソ連は(特にその前半において)米国を含めた世界の共産化を目指していた。米国も民主主義と資本主義を奉じて共産圏に対抗した。イデオロギー対立は必然的に「倒すか、倒されるか」という緊張を招いた。

それに対し、ニクソン訪中後の米中関係は、時に対立することはあっても共存が大前提だった。米国の関与政策は中国の体制転換(Regime Change)を少なくとも意図的に狙うものではなかった。「改革開放」後の中国も、その経済システムはもはや共産主義とは言えない。中国は米国が主導してつくった国際秩序の中で繁栄を享受してきた。その基本構図は今も変わらない。

《マルクス・レーニン主義》

ところが今回の一連の演説では、「米中対立の根源にはイデオロギー対立がある」という決めつけが繰り返された。6月26日の演説でオブライエンは次のように述べた。 

「はっきりさせておこう。中国共産党はマルクス・レーニン主義の組織である。党総書記の習近平は自らをヨシフ・スターリンの後継者とみなしている。」 

 一方で、中国共産党の体制がマルクス・レーニン主義の体制であることを肝に銘じよ、と説くポンペイオはこう述べている。 

「習近平総書記は中国の共産主義が世界で覇権を握ることを数十年来望んできた。それはこのイデオロギーに因るものだ。中国が米中両国間の政治的及びイデオロギー上の基本的な違いを決して無視してこなかったように、米国はもはやその違いを無視できない。」 

ちなみに、ペンス演説の中で習近平の呼称は「習主席(President Xi)」だった。ポンペイオは「習総書記(General Secretary Xi)」と呼んでいる。中国を共産主義イデオロギーと結びつけるための演出の一つであろう。

中国の指導部がマルクス・レーニン主義を奉じて世界の覇権を本気で狙っているという唐突な主張に関して、まともな裏付けは示されていない。オブライエン――小者とはいえ、米国の安全保障担当補佐官である――が元豪州政府官僚のジャーナリストを引用しているだけだ。にもかかわらず、少なからぬ米国民はポンペイオたちの主張を受け入れるだろう。今日の米国世論は「オルタナティブ・ファクト」にすっかり毒されてしまった。しかも、AVP第3号でも述べたように、単純な中国悪玉論はトランプ支持者にも民主党支持者にも受け入れられやすい。

《敵に塩を送る中国》

中国の方にも、米国内の対中強硬派に「付け入る隙」を与えている面が多々ある。知的所有権の侵害、国営企業を含む中国企業への国家及び共産党による支援と介入、サイバー攻撃やスパイ行為、少数民族や民主派の弾圧、南シナ海・東シナ海にける拡張主義的行動等々・・・。いくら中国が否定しても、それは通らない。最近もコロナ禍の最中に「戦狼外交」を展開する一方、香港国家安全維持法を制定した。ポンペイオたちがイメージ操作するための材料には事欠かない。そこへ〈決め科白〉として「マルクス・レーニン主義」を持ってくれば、響いてほしい人には響く。

総力戦の呼びかけ

 中国の脅威を「これでもか」と列挙したのち、ポンペイオたちは米国の新しい対中戦略を(半分明示的、半分暗示的に)ぶちあげている。この部分こそ、演説の〈核心〉だ。以下、二本の柱にまとめてみよう。

①   国家総動員体制

バー司法長官の演説に従えば、通貨操作、関税、知的所有権侵害、サイバー攻撃、スパイ行為、一帯一路、5GやAIなどを通じて、中国は米国の脅威となっている。だとすれば、米国の対中戦略は軍だけでは完結せず、経済や技術等を含めた〈国家総動員的〉な性格を持たざるを得ない

バーは「中国が共産党によって統治されている限り、アメリカ国民が自分たちと中国の関係を再評価しようとすることを望む」と言い、次のように続ける。 

「子供たちや孫たちのために自由な世界と繁栄を確保するため、自由世界は独自の社会全体にかかわるアプローチを必要としている。それは、公的及び私的セクターが本質的な違いを保ちながらも、(中国による)支配に抵抗し世界経済の戦略的要衝をめぐる争いに勝利するため、協力して働くアプローチだ。」 

「(米国の企業や大学は)自分たちが成功しているのは、アメリカの自由な企業システム、法の支配、米国の経済的・技術的・軍事的な力によって可能となる安全保障のおかげであることを忘れてはならない。(中略)共産主義中国の太鼓が鳴り響く世界に近づけば、それは自由な市場、自由な貿易、自由な意見のやりとりに依拠する組織にとって快適なものとはならない。」 

 ここで言う「社会全体にかかわるアプローチ」は米国民の生活や米国企業の損益にも必然的に影響を与える。選挙を控えているせいもあってか、ポンペイオたちもその具体的な中身にはあまり立ち入っていない。バー(司法長官)はハリウッドの映画産業が中国の嫌う表現やシナリオを変更していると批判する一方で、第二次世界大戦に際してディズニーの従業員の90%以上が海兵の訓練用ビデオや軍の公共広告映画の製作に従事した、と述べた。ハリウッドには民主党支持者が多い。政治的計算を働かせながら米国民にじわり圧力をかけたというところであろう。

②   対中有志連合

中国の国力は米国に接近し、部分的には既に米国を凌駕している。トランプ政権はこれまで米中二国間で貿易戦争を仕掛けてきたが、思うほどのダメージを与えられていないトランプ政権に国際的な対中包囲網づくりの動きがみられることはAVP第4号でも触れておいたが、それは予想よりも早く加速してきた。ポンペイオの演説から、諸外国への呼びかけを抜き出してみよう。 

「自由を信じる国家は自由を守るために動かなければならない。(中略)私はすべての国の指導者に対して、米国が既にやったことから始めるよう呼びかける。それは、中国共産党に透明性と説明責任を求めることだ。」 

「我々が今行動しなければ、中国共産党は最終的に我々の自由を侵食し、我々の社会が懸命に築いたルールに基づいた秩序を転覆させるだろう。(中略)我々はこの課題に単独で立ち向かうことはできない。(しかし、)国際連合、NATO、G7、G20、そして我々の経済・外交・軍事の力を合わせ、明確な方向性と大いなる勇気を持って当たれば、この課題に対応することは十分できる。」 

「おそらく今こそ、同じ志を持つ国が新しいグループ、民主主義の新しい同盟をつくるべきときだ。」 

実に歯切れよくアジっている。あれほど国際機関や同盟国を批判しておきながら、自分の都合で急に「一緒にやれよ」と言ってくるのだから、ご都合主義もいいところ。だが、それこそ「アメリカ・ファースト」なのだと妙に納得もした。

米国が対中包囲網づくりで同盟国などに同調を求める動きはファーウェイへの対応などで既にみられる。今後、その動きが加速することは確実だ。なお、ポンペイオたちが念頭に置く対中包囲網が「社会全体にかかわるアプローチ」にかかわるものとなるであろうことはしっかり押さえておく必要がある。

《既に手はまわりはじめている》

7月28日、有志議員でつくる「ルール形成戦略議員連盟」(会長・甘利明税制調査会長)が中国のアプリ(TikTok)への対応に関し、政府への提言をまとめる方針だと伝えられた。[x] 正直な甘利は、米国から「同様の視点で物を見る、分析する要求が、間接、直接に来ている」と打ち明けている。対中戦略を考え抜いたわけでもなく、米国の言う「安全保障上のリスク」を鵜呑みにするしかない政治家や経済安保官僚がもう先走りはじめている――。この構図は実はとても危うい。

本項で指摘した総力戦は米国民の広い協力を必要とし、対中包囲網づくりは国際社会の協力を必要とする。そう考えたとき、米中対立をイデオロギー対立と位置付けることは大きな意味を持つ。イデオロギー対立とは言わば、「存在する理由」の対立。最も先鋭化させやすい。政治的な動員の理由付けには、国内的にも国際的にも〈もってこい〉なのである。

レジーム・チェンジの臭い

自己成就的予言(Self-fulfilling prophecy)」という言葉がある。他人の思考や行動に関する本来的には間違った予測が相手に伝わり、相手がそれに対応して行動する結果、当初の予測が当たってしまうことを指す。ポンペイオたちの演説は、まさにその種の予言となる可能性が高い。

ポンペイオたちは米中対立をイデオロギー対立と捉え、「中国共産党は米国を変えようとしている」という予測を立てる。そうした事態を防ぐため、米国は対中包囲網をつくり、軍事・経済・技術などすべての分野で中国と対決しようとする。中国の方もまた、米国等の動きを脅威とみなす。その結果、中国の指導部は「米国と並び立つことはできない」「やらなければやられる」と思い詰めて米国との対立をさらに激化させる・・・。

冷戦後期の国力が衰えていたソ連と異なり、今日の中国には長期にわたって米国と競う力が十分にある。本気になった米国の圧力を受けて習近平体制が弱体化するシナリオよりも、中国人がナショナリズムを掻き立てられて団結するシナリオの方がはるかにありそうだ。

《中国指導部の琴線》

中国の指導部にとって最も看過できないのは、ポンペイオたちが中国共産党と習近平をはっきりと敵視していることであろう。共産党批判の激越な言葉は既に紹介したとおりだが、ポンペイオはこうも言っている。

「それ(筆者註:中国共産党に厳しく当たること)だけで我々の望む結果を生むことはない。我々は中国の人々――ダイナミックで自由を愛し、中国共産党とは完全に別個の人々――に関与し、力を与えなければならない。」

この言に続けて、ポンペイオは演説の中で自分が最近会った「中国の人々」を列挙した。新疆の強制収容所を脱出した人、香港の民主派指導者、天安門事件の体験者、米国に亡命した民主活動家の魏京生氏。いわゆる反体制派のオンパレードであった。この人たちを支援して「共産党を変える」ということになれば、ポンペイオがそう呼ぼうと呼ぶまいと〈レジーム・チェンジ〉以外の何ものでもない。仮に共産党の看板は残っても、共産党による統治の正当性は大きく貶められ、習近平も他の党幹部も今の地位にとどまることはできまい。7月25日付のNational Interest誌に載った論文は、ポンペイオの中国政策を「レジーム・チェンジ」だと断じた。[xi]

中国が長期目標として米国と並び立つ強国になることを欲していることはおそらく間違いない。一方で先に述べた通り、米国を含む世界が共産化すれば、現在の世界秩序の中で甘い汁を吸ってきた中国の繁栄も終わる。少なくとも現実的な時間軸の中で、中国の指導部が米国の打倒を企図しているとは考えにくい。しかし、これだけ露骨に刃を喉元に突き付けられれば、話が変わってきてもおかしくない。

ポンペイオが示した新しい対中戦略は、中国の指導部にも米中対立を〈相容れない価値観の対立――「共産主義」対「民主主義」というよりも「共産党の指導に正当性を認めるか否か」という位置づけであろう――〉と捉えさせ、「何十年かかっても米国を屈服させるまで戦うほかない」と決意させることになるのではないか。中国は「臥薪嘗胆」の国だ。目先で戦術的に多少穏健になることはあっても、最終的に米国に尻尾を振ることは絶対にない。

おわりに~価値観外交の罠にはまるな

思い起こせば、トランプ政権は「対北朝鮮で生ぬるい対応を繰り返した結果、米本土が北朝鮮の核・ミサイルの脅威にさらされる事態を招いた」と歴代の政権を猛批判し、2017年の春までに「最大限の圧力」と呼ばれる政策変更を行った。その後、米国主導の強化された制裁と北朝鮮による核・ミサイル実験の応酬が起こり、米朝は文字通り「一触即発」の状態に陥ったこともあった。だが結局、2018年6月の米朝首脳会談以降はトランプも北朝鮮の時間稼ぎに付き合うようになり、北朝鮮の核・ミサイル能力は現在、2017年の春時点から長足の進歩を見せている。腕力が効果を発揮するタイミングを逃したあとで袖をまくってもうまくはいかない、ということだろう。

今また、米国の国務長官や複数の閣僚が歴代政権の対中関与政策を批判し、イデオロギー対立を前面に押し出して中国との対決路線を唱えはじめた。しかも、日本を含めた世界の国々に「米国の対中軍事・経済・技術戦争に加われ」と迫っている。

日本にとって中国が「問題」であることは否定できない。私自身も中国と〈仲良し小好し〉になれるという楽観はまったく持っていない。しかし、中国は軍事的に強大であり、かつ我が国に隣接している。日中は経済的にも技術的にも著しい相互依存状況にある。9.11(2001年)とその後のアフガン・イラク戦争時のように「米国について行くしかない」では済まされない

いきなりマルクス・レーニン主義という埃をかぶった言葉を振りかざされ、中国は共産主義国家だから共存できない、と言われても誰がついていくものか。ポンペイオに問うてみたいが、中国が民主主義国家であったならば、米中は対立していなかったのか? その答がノーであることは、今日の日本と韓国が証明している。

米中対立の最も本質的な原因は〈政治体制の違い〉ではなく、〈国力の接近〉にある。仮に米国の新しい対中戦略が奏功し、中国が民主的な選挙で指導者を選ぶようになったとしよう。民主主義中国の国力が増大する限り、米国は中国を警戒し続けるし、米中対立もなくなることはない。かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた頃、日米通商摩擦が燃え盛った。あの頃の日本は民主主義国家だったはずである。

私に言わせれば、日本の価値観外交は対米従属外交の言い換えにすぎない。薄っぺらい価値観を振り回して米国との一蓮托生を選ぶのは愚の骨頂だ。
 今、日本政府はコロナにエネルギーを取られ、与野党はそれぞれ政局にはまって国家戦略どころではなさそうに見える。そこを米国に突かれ、「気が付いたらまたしても米国の駒になっていた」という事態だけは、何としても避けたい。


[i] https://www.state.gov/communist-china-and-the-free-worlds-future/

[ii] https://www.eaci.or.jp/archives/detail.php?id=133

[iii] https://www.eaci.or.jp/archives/detail.php?id=135

[iv] https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/chinese-communist-partys-ideology-global-ambitions/

[v] https://www.fbi.gov/news/speeches/the-threat-posed-by-the-chinese-government-and-the-chinese-communist-party-to-the-economic-and-national-security-of-the-united-states

[vi] https://www.justice.gov/opa/speech/attorney-general-william-p-barr-delivers-remarks-china-policy-gerald-r-ford-presidential

[vii] https://www.amazon.co.jp/%E7%B1%B3%E4%B8%AD%E3%82%82%E3%81%97%E6%88%A6%E3%82%8F%E3%81%B0-%E6%88%A6%E4%BA%89%E3%81%AE%E5%9C%B0%E6%94%BF%E5%AD%A6-%E6%96%87%E6%98%A5%E6%96%87%E5%BA%AB-Peter-Navarro/dp/4167912716/ref=pd_lpo_14_t_0/358-2791136-2491664?_encoding=UTF8&pd_rd_i=4167912716&pd_rd_r=99cea6f6-b6cd-4748-ae3f-1601a0d6c652&pd_rd_w=1vfyx&pd_rd_wg=yeHB7&pf_rd_p=4b55d259-ebf0-4306-905a-7762d1b93740&pf_rd_r=GA4KHDNKDDN846EWSFV7&psc=1&refRID=GA4KHDNKDDN846EWSFV7

[viii] https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/remarks-vice-president-pence-administrations-policy-toward-china/

[ix] https://www.nikkei.com/article/DGXMZO51377650V21C19A0FF8000/  https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/remarks-vice-president-pence-frederic-v-malek-memorial-lecture/

[x] https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-07-28/QE5KVVT0G1KX01

[xi] https://nationalinterest.org/feature/mike-pompeo-just-declared-americas-new-china-policy-regime-change-165639

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